(1)交通事故案件の経験少ない弁護士の場合

 診断書を見て、「腱板損傷」を最初から丸ごと信じます。「肩関節の可動域制限が1/2ですので、後遺障害は10級10号が見込めます!」と息巻きます。今後、請求する慰謝料や逸失利益を計算して、「これは利益の大きな案件だ」と張り切ります。

 しかし、自賠責の等級は「非該当」もしくは「14級9号」となるはずです。そこで、期待させた依頼者から、散々責められて・・面目立たずに委任解除となります。または、引っ込みがつかなくなった先生は、軽薄な診断書一枚を持って裁判に持ち込みますが、有効な立証などできようもなく青色吐息、画像所見は相手損保の顧問医の意見書から否定され、負けは必至となりました。毎度お馴染み、「この辺で手を打つよう」必死に依頼者の説得にかかります。結局、低額の和解(実際はボロ負け)=最初から裁判の必要などない結果となります。

 交通事故に限らず、弁護士先生は、医師の診断書(その他の公文章)を信用し過ぎる傾向があります。イノセントとは言えますが、経験不足は否めません。このようなケースを何件もみてきました。
 
(2)交通事故にそこそこ経験ある弁護士の場合

 「ちょっと待って、診断書の診断名や可動域の計測値は置いておいて、MRIで腱板断裂の所見は得られているのでしょうか?」からスタートします。そして、訴える症状を検証しますが、微細な断裂、深層断裂、疎部損傷?・・よくわかりません。流行の画像鑑定なども考慮します。つまり、事故受傷との因果関係から、臨床上の診断名が賠償上維持できるか慎重になります。

 結局、自賠責の認定結果を待って、認定等級を前提に賠償交渉を計画するしかありません。おそらく10級どころか、12級もつかないでしょう。運よく14級9号が関の山です。問題は「腱板損傷」の診断名にこだわる依頼者をどう説得するかでしょうか。
 
(3)秋葉事務所の場合

 最初から「腱板損傷」の診断名に懐疑的です。前提として、受傷機転と治療経緯を慎重に検証します。「その程度の衝撃で棘上筋が切れるの? 直後は激痛で動けないはずなのに運転して帰った? 病院に行ったのは3日後? MRI検査や確定診断も数ヵ月後?」・・これらの事情を聞けば、事故外傷による腱板損傷と思えなくなります。自賠責の障害認定は、診断名や画像所見以前に、まず、常識判断をしているものです。

 これらの前提に加え、相談会ではMRIの画像所見を見出すまでは、診断名を妄信しません。画像所見の次に肩関節の可動域をゴニオメーターで計測します。診断名+画像所見+可動域の数値の一致を確認します。そもそも、町の個人開業医に専門的な読影を求めるのは酷です。案の定、画像所見は微妙、せいぜい”疑い”の域をでていません。多くは、「陳旧性の損傷」になります。陳旧性とは本件事故ではない、古傷や年齢変性を指します。したがって、「この程度の追突の衝撃で腱板損傷は説得力がありません。もし、衝突の衝撃で棘上筋が切れたのであれば、激痛で救急搬送は必至、大の男でもハンドルなど握れず、運転どころではないですよ」と続けます。

 以上から、3つの対応を選択します。
 
① 真性の腱板損傷

 本件では可能性が極めて低いのですが、もし、棘上筋断裂であれば肩の専門医の診断を乞います。肩関節の1/2制限など、本来、手術が適用される重度損傷です。専門医のもと、再度の3.0テスラMRI検査を重ね、専門医の診断書と検査所見を完備します。小池クリニックの診断や精度の低いMRIはあくまで、補強的な医証へ下げます。そして、間違いのない等級認定を固めてから弁護士につなぎます。
 
② 陳旧性の損傷

 前原さんの受傷機転と直後の治療経緯から 、恐らく陳旧性の病変と思います。前原さんのスポーツ歴、職歴を尋ね、元々、事故前から肩に変性があったと説明、前原さんの理解を促します。さらに、この程度の病変部で、肩関節が1/2も挙がらないなどと主張すれば、詐病者扱いになりますよと戒めます。もっとも、明らかな詐病者であれば、初回相談で終了、お帰り願います。
 
③ 事故受傷から発症した症状であれば

 陳旧性であっても、事故受傷から痛みを発症するケースもあります。これはムチウチに同じく、引鉄論として、医学的に説明がつきます。事故の衝撃でインピンジメント症候群を発症したケースを数件、経験しています。簡単に言うと、歳をとって棘上筋等のささくれが肩関節を動きを邪魔し、中高年のいわゆる四十肩・五十肩の症状となります。これは経年性の内在的な病変ですが、事故を契機に痛みを発することがあります。これを、自賠責は「外傷性の肩関節周囲炎が惹起された」と推測、14級を認定しました。もっとも、歩行中、車にはねられて肩を強打したケースでした。自動車搭乗中に追突されて・・では一笑に付されます。この手の多くは、頚肩腕症候群と言って、頚部神経症状由来の肩の痛みが原因です。

 したがって、外傷性肩関節周囲炎にしろ、頚椎捻挫にしろ、真面目にリハビリを継続し、適当な時期に症状固定、小池先生に診断書の記載をお願いします。ここで、過度な可動域制限の数値などは敬遠させます。できるだけ、肩の可動域は自助努力で回復させるべきです。すると、症状・治療の一貫性から、神経症状の14級9号認定の余地を残します。ややグレーながら症状の信憑性があれば、自賠責も鬼ではありません。
 
 こうして、現実的な解決に導くことが、交通事故のプロであると思います。結論として、本件の前原さんは、受傷機転と直後の治療経緯から、事故との因果関係どころか信憑性も程遠く、等級認定は難しいと思います。
 
 ここまで緻密に検証されては、依頼者も納得して解決へ舵を切ります。
 
 交通事故の専門家は、診断名だけで判断せず、陳旧性か事故受傷に起因する所見かを区別する必要があるのです。一歩間違えると、(1)の弁護士さんの例のように、診断名が迷走、事故解決は遠のくばかりです。
 

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