高次脳機能障害のマニュアルが出版されて1年あまり、出版の反響からか全国から相談が寄せられています。
 

 相談内容の傾向ですが、受傷後数年経ってから「やはり何かおかしい」「事故以来変わってしまった」が散見され、障害が見逃されたまま時が過ぎてしまった被害者が少なくありません。
 「受傷直後は命に係わる大けがでしたが、その後順調に回復して一人で歩けるようになったし、会話もできるようになった・・・このままどんどん回復すると思っていました・・」。しかしご家族の期待通りにいかず、物忘れがひどい、怒りっぽくなった、職場でも集中力がなく仕事が続けられなくなった。こうして事故前の能力、生活を取り戻せないまま数年が経ってしまいました。

 高次脳機能障害には以下3つの特徴があります。

「本人に病識(自分が障害を負っているという自覚)がない」

「不可逆的(一定以上は回復しない)」

「認知症のように全般的に能力が落ちるのではなく、ある能力だけが欠落する」

 つまり、障害の程度が比較的軽い方は一見普通なのです。家族の観察も「少し変でも事故のせいで、もっとよくなるはず」と甘い見通しになりがちです。肝心の主治医も命を取り留め、元気になった患者に対する関心はなくなります。さらに職場に復帰しても「大ケガだったけどよく回復したね~」と歓待されるものの、「何か変、事故前と変わった?」と周囲が徐々に異変に気付いてきます。このような状態で月日はどんどん流れていきます。

 特に高次脳機能障害の9級、7級の方は、ある一部の能力の落ち込みや性格変化があるものの、それ以外の能力は事故前と変わりません。微妙な障害では見逃されやすいのです。民事賠償請求の時効は(損害=障害が明らかになってから)3年、もしくは事故から(どんな理由があるにせよ)最長20年です。したがって障害が正式に診断されないままであっても、時効期間内であれば、立証が間に合うことがあります。
 しかし、事故から時間が経てばたつほど、画像所見はもちろん、正確な検査数値がでない可能性もあります。やはり脳に相当の器質的損傷を受けた場合、家族は甘い期待を抑え、厳しく観察を続ける必要があります。そして主治医に検査の必要性を訴えるべきです。

 受傷から間もない時期にご相談にいらした方はかなりの確率で立証に成功します。そこで頼るべき弁護士、行政書士ですが、「高次脳機能障害はお任せ下さい」とあるHPを総覧してみました。総じて高次脳機能障害の専門家のように謳っていますが、実際の経験数は乏しいと思います。何故なら年間3000人ほどの認定数しかいなく、その80%以上は保険会社による事前認定です。日本中に専門家が何十人もいるはずがないのです。
 おそらく日本で最も高次脳機能障害を手掛けている行政書士は私と思います(常時10件前後の受任・相談をお預かりしています)。転ばぬ先の杖として、ご相談だけでも早くしていただければと思います。受傷後、数年たってからの相談が多いこの頃、強く願っています。