続いて、「賠償先行」の支払い保険金の算定方法をみてみましょう。これは(5)の部分です。その前に(4)ですが・・これは前項で、「人傷先行」の場合は契約者の過失分しか払わんよ、とした為、「代位」=求償の規定に例外規定を設けたようです。これも、人身傷害の先行払いについて、支払い抑制?の準備をしているようで・・あまり気分の良いものではありません。

 

(4)本条(2)の場合には、当社が人身傷害保険金を支払った場合であっても、第11条「代位」の規定にかかわらず、当社は、保険金請求権者が賠償義務者に対して有する権利については、これを取得しません。

 
<翻訳>
 これは、元々、人傷先行の場合、普通に11条「代位」で、「払った保険金は私どもが相手から返してもらいます」と、相手に対する求償権をうたっているところ、「(2)人傷先行にて、自社との協議や裁判で先に過失分を決めて支払う」ので、支払った過失分につき、求償分が発生しないとを予定している一文と解します。

 だからこそ、「被害者(契約者)の過失分を少なめに判断(?)して払うだろうな」とゲスの勘繰りをしてしまいます。
 

(5)賠償義務者からの損害賠償金の支払いを先行した後に、保険金請求権者が人身傷害保険金を請求した場合であって、賠償義務者との間で判決または裁判上の和解において損害の額が確定し、その基準が社会通念上妥当であると認められるきは、当社は、その基準により算出された額を本条(1)の損害の額とみなして、第4条「お支払いする保険金の計算」(2)に規定する計算式を適用します。
ただし、これにより算出される額は、本条(1)の人身傷害条項損害額基準に基づき算定された損害の額を限度とします。

<翻訳>
 「賠償先行なら、裁判での金額を認めます」との裁判基準差額説の説明ですので問題ないと思います。これは、損保ジャパン日本興亜と同じくフェアなルール設定です。
 (詳しくは ⇒ 損JNKのルール

 ただし、ここにも人身傷害基準を盾とする毒が潜んでいます。(5)の後段、「ただし、」以下の一文です。
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  ただし、これにより算出される額は、本条(1)の人身傷害条項損害額基準に基づき算定された損害の額を限度とします。・・・この一文は、「裁判基準の総額から計算された過失分を、保険金額として認めます。ただし、自社基準の損害総額が限度となります。」と解釈できます。
 
 (事例から説明しましょう)

1、総損害額が裁判で1000万円、自身の過失分が80%と判決されました。

2、すると、相手から1000万×(100%-80%)=200万を受け取ることができます。

3、続いて、人身傷害に差し引かれた800万を請求します。

4、しかし、人傷社の基準で計算された総損害額は500万だったとします。

 ガーン、(5)ただし書きの規定により、限度額は500万! したがって、800万は支払い限度をオーバーしていますので、人身傷害からの支払い保険金は500万限度で勘弁してね、となります。結果、200万+500万=700万円とやはり損害総額の1000万円の獲得とはならないのです。


20140507
新たな問題が浮上です

 自身の過失が40%以下なら、めったに起きない現象と思います。しかし、自身の過失が50%を超えて大きい場合、このようなケースが想定されます。もっとも、自身の過失が80%もあれば、加害者側・相手保険会社は一括対応(治療費の支払い)をせず、自身の人身傷害保険に支払いを求めることが普通です。治療後、後遺障害の請求も人身傷害でしょう。すると、(4)の条項で「人傷基準」にされてしまいます。それを防ぐため、あえて「賠償先行」で裁判基準を勝ち取ったとしても、上記のごとく、支払いは天井付きとなります。

 裁判基準での全額獲得を目指しても、このように自己に責任が大きい場合では、人身傷害基準の満額までとの上限が壁となります。保険会社の(支払い金額を抑えたい)執念を感じます。もっとも、自分の責任が大きい事故で、「保険金を裁判基準で」と欲張る契約者さんも多少図々しいかな?と思っています。

 つづく