またしても人身傷害・約款の壁で、矢口さんは全額の補償が得られません。
 
 損保ジャパンでは既に平成21年から、第8条『保険金の計算(3もしくは後段)』でこの規定(以下6条(3))を盛り込んでいました。損保ジャパンは人傷先行後の求償について、裁判となった場合限定で「訴訟基準」で払う事を早くから規定していたようです。
 そして、26年7月改定ではこの規定を第8条『保険金の計算』から第6条『損害額の決定(3)』に移転させました。この条項移転によってより積極的に、賠償先行+訴外解決の場合は「人傷基準差額説」と規定したことになります。
 また、この条項移転を好意的にとらえれば、「賠償先行でも裁判で決定した総額なら、差額は訴訟基準で払います」となります。

 こうして「人傷基準差額説」vs「訴訟基準差額説」の回答、つまり、人傷先行か賠償先行かで支払い保険金に差がでる問題について、「それは請求の前後ではなく、あくまで裁判するか否か次第」としました。ようやく保険会社からの(少なくとも損保ジャパンからの)見解・解決が提示されたと言えます。
 
 このシリーズ、約款の不備を指摘したかったのですが、逆に保険会社の(約款の)周到さに感心させられました。まるで保険会社の掌にあった孫悟空の気分です。
  

第6条 支払い保険金の決定(3)

 わかり易いように略=( )を加えています

 (総損害額は当社の基準で計算しますが)それにかかわらず、賠償義務者があり、かつ、賠償義務者が負担すべき法律上の損害賠償責任の額を決定するにあたって、判決または裁判上の和解において、(当社の)
規定により決定される損害額を超える損害額が認められた場合に限り、賠償義務者が負担すべき法律上の損害賠償責任の額を決定するにあたって認められた損害額をこの特約における損害額とみなします。
 ただし、
その基準が社会通念上妥当であると認められる場合に限ります。
 

 これは「TUG損保と後藤弁護士間で裁判になった場合に限って、その総損害額を認めます。」と解します。つまり逆を言えば、総損害額の決定は裁判での和解・判決を除き、人傷社(加護火災)の算定基準で計算することになります。本件はTUG損保と後藤弁護士の交渉による総損害額なので、加護火災はあくまで自社基準でしか払えないと言うのです。しかし、この交渉でまとまった金額は「赤い本」基準で計算された裁判基準の額です。「たら、れば」ですが、裁判をやればほぼ同じ賠償額が予想されます。そもそも「訴訟基準差額説」の「訴訟基準」とは形式(実際に裁判をやった結果)なのか、実質(赤い本等で計算された額)なのか議論があるところですが、少なくとも約款では「形式である」ときっぱり明言しています。
 

 ・・保険会社がいくら約款を明確化しても、やはり納得がいきません。後藤弁護士は交渉ながら裁判基準を勝ち取った素晴らしい成果をあげたにもかかわらず、裁判で決まった額ではないが故に、人身傷害の全額補償が受けられない。こんな理不尽が交通事故賠償の現場では多発しているのです。私はこれが人身傷害における最多発の矛盾問題、人傷基準ハザードと思っています。
 
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 このように賠償先行の場合、多くの弁護士は約款の文理解釈によって人傷基準を納得させられています。しかし、一部の弁護士はいくつかの対策を取っています。
 
 つづく