少し間が空いてしまいました。このシリーズは一回一回とてもエネルギーを使います。できれば主要損保会社10年間の約款をすべて確認したいのですが、それをやったら半年かかってしまいます。とりあえず損Jを中心に、東海他数社を確認しながら進めています。不正確な記述あれば、後戻りしてちょこちょこ修正していこうと思います。

 さて、昨日まで主要な問題点を明らかにしました。現在、連携している弁護士の先生方がこの状況でどう対処しているかを紹介します。題して「訴訟基準をゲットするための3策」。
 

1、人傷先行

 「差額説」判決の根拠となった、代位(求償)の規定、「被保険者または保険金請求権者の権利を害さない範囲内で」を生かし、先に人身傷害にせっせと請求します。とくに高額となる後遺障害の慰謝料と逸失利益を事故相手(賠償社)に請求する前に、人身傷害から確保します。まずは人傷基準とはいえ、自身の過失関係なしで100%を得ることができます。自身の過失が大きければ大きいほど威力を発揮します。

 そして、次に相手側に賠償請求します。それが裁判となれば当然、交渉や斡旋機関で解決しようとも賠償金を得て、その内から先に人身傷害特約で得た分を返します。その際、「契約者の権利を害さない範囲で」返せばいいので、以下のように訴訟基準の損害全額1000万円を確保し、それを超える300万円を人傷社に返せば済むことになります。

保険会社 加護 人傷先行banzai
「人身傷害保険金500万円払います」「契約者の権利(全額)を害さないように・・」 「1000万円確保!」

保険会社 加護   ⇐  300万円の求償金が戻る
「結局、200万円の出費か・・(泣)」

 
 しかし、これも必勝法とまでは言えず、2つの課題があります。一つは、人傷社が人身傷害保険金を払う際に、承諾書なる書類に署名捺印を求めてくることです。その内容に「弊社算定基準により、既払い保険金を優先的に相手から求償します」と書かれがちであることです。これでは人傷基準(で回収されること)に同意することが保険金支払いの条件とされてしまいます。この一文を削除するしないで人傷社と膠着状態になることがあります。
 もっとも、人傷社の担当者が勉強不足であれば、こちらの意図(人傷先行)を読み切れず、求償の条件が曖昧な普通の承諾書にて払ってくれます。3メガ損保の担当者のレベルは安定していますが、それ以外の損保はそれなりの人材です。

 さらにもう一つ。最高裁「差額説」判決(24年2月)以降、「代位」(≒求償)の約款について、各社、修正が進んだことはすでに述べました。とくに損Jのように代位の規定を人身傷害の約款に移転した会社の場合、「差額説」(拡大解釈して「訴訟基準差額説」)の根拠となった「被保険者または保険金請求権者の権利を害さない範囲内で」が、うやむやになっています。
 
 したがって、加護火災が以下のように主張する懸念があります。

 

「約款改定で、損害の全額は弊社の算定基準、もしくは保険会社 加護裁判で決まった額となります。今回のように裁判ではなく交渉で決まった総額1000万円は認められませんよ。したがって弊社基準で計算しますところ総額は500万円です。そこからの矢口さん過失分20%は100万円です。よって、既払い保険金500万円-過失分100万円=求償金額400万円。400万円を返してもらいます。」
 20140507

 

 「えーっ! 交渉解決なら全額にならないの?」
 
 

 理論上、つまり昨日解説した損J型の約款(第6条の(3))通りならばそうなります。約款通り、訴外解決であれば人傷社は人身基準で求償をかけてきてもよさそうです。しかし、そのようなケースは少ないようです。最高裁判決の「差額説」を尊重して、人傷基準での求償を控えているのでしょうか・・?
 
 もし、ここで人傷社が強硬に人傷基準での求償を主張して裁判にでもなったら、約款の問題点が再び議論されることになります。そして契約者保護の観点から、「交渉であっても人傷基準を上回る損害額が決まったら、それを損害の全額とすべき!」などの判決がでたら・・保険会社にとって平成24年2月最高裁「差額説」判決の悪夢の再来、「人身傷害保険の保険金は弊社の算定基準で計算します」との約款は木端微塵に破壊されます。私は保険会社がこの問題を突き詰めることをせず、逃げている印象をもっています。連携弁護士も「人傷先行&交渉解決(斡旋解決含む)」の場合、人傷社が強硬に人傷基準の求償額を求めてこないと言っています。

 現状、裁判基準での全額確保はこの「人傷先行」策がスタンダードとなった感があります。しかし、これも最新の約款からは問題含みであることを知っておかねばなりません。

 つづく