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 人身傷害特約の支払額は、ある損保会社の約款によれば、以下のようになります(基本的に保険会社はこの内容で共通しています)。

A、まず、その任意保険会社が定めた額を支払うこと。

B、そして、賠償義務者がいて、しかも判決・裁判上の和解で出された損害賠償額が上記額を超えていた場合、その基準が社会通念上妥当(常識的)であれば、その基準により算出された額とすること。

 つまり保険会社は、消費者と契約をして、なるべく安い金額で済ませようとしますが、裁判所の出した金額であれば、その額を尊重するため、裁判等で出た基準での金額にしようとしているのです。早い話、知らなければそれまでなのです。

sanma
 もちろん、任意保険会社が定めた人身傷害特約の額の方が裁判等で出てくる金額よりも低いものです。保険会社は営利企業ですので、損しないよう、まず相場よりも低い額で提示し、その額で交通事故の被害者がOKした場合には、示談されたので、その額で交通事故は解決したものとされてしまいます。そこで、皆様は弁護士を依頼して交渉してもらい、裁判等での解決を望むと思います。実際には、弁護士が裁判基準の額を請求すれば、保険会社は無駄な裁判等を嫌うので、交渉による解決で終わり、実際に裁判等を行わないケースもあります。

 ただし、被害者ご自身に交通事故の発生について過失があった場合、その分は損害賠償額から引かれます。人身傷害特約は過失があっても支払われるのですが、上記それぞれの支払額から、以下のように算出できます。

(例)
(1)保険会社(人傷社)の基準での計算(損害賠償額が500万円となった場合)
500万円-過失2割分(500万円×0,2)=400万円

(2)裁判等で出た基準での計算(損害賠償額が1000万円となった場合)
1000万円-過失2割分(1000万円×0,2)=800万円

(1)であれば、人身傷害特約で100万円、(2)であれば200万円出るはずです。
 
 ここで問題となるのは、人身傷害特約を先に請求したのか、それとも裁判等で損害賠償請求をして先に判決等がでたのかで計算が複雑になります。

 先に人身傷害特約を請求した場合、500万円が先に被害者に支払われます。その後、裁判等での金額を請求するため、弁護士に依頼をした場合で、加害者の任意保険会社から800万円請求できたとします。
 その場合、合計1300万円取得することにありますが、こんなに取ることは勿論できません。300万円は人身傷害保険を出した保険会社(人傷社)にお返しします。何故なら、人身傷害特約は「被保険者・保険金請求権者の権利を害さない範囲内で」補償するものだからです。その範囲を超えた分についてはダメということになります。

 いずれにせよ、人身傷害特約を先に利用すれば、満額回収できることになります。

 これに対し、先に裁判等で請求した場合、過失分を減額した800万円が回収できます。
その後、足りない分を人身傷害特約で回収するため、被害者は自分の保険会社(人傷社)に請求をしました。その際、支払われた額は不足分の200万円になりそうです。しかし、実際に支払われるのは、100万円のみです。

 何故100万円になるのか。保険会社(人傷社)は以下のように計算をします。

 裁判等で過失は2割あったことが確定していること。そしてこちら(人傷社)の基準では、最高額が500万円であり、その過失分として100万円のみ支払うことになること。この点、裁判所(平成24年の高等裁判所の判決)はこの考え方をとりました。

 人身傷害特約は「被保険者・保険金請求権者の権利を害さない範囲内で」補償するものだからその範囲内(今回は1000万円)であれば満額回収できるはずではないのか?
 この点、裁判所は以下のように考えています。

 上記したように、先に人身傷害特約を請求した場合、保険会社(人傷社)は契約者である被害者に多く払ってしまった(今回では1000万円を超えた場合)ときに被害者に返してもらうよう請求できます。しかし、保険会社(人傷社)が請求する場合には被害者の権利を害さないようにするよう約款にあります。
 これに対して、先に裁判等で請求した場合、足りない過失分を人身傷害特約で回収するため、被害者は保険会社(人傷社)に請求することになります。しかし、保険会社(人傷社)が被害者に請求すると異なり、今回は被害者が保険会社(人傷社)に請求する手続きであり、この手続きについては、被害者の権利を害さないようにするという約款は無い。よって、保険会社(人傷社)と被害者との契約通りの基準(人傷社の基準)で計算しても問題はないということになります。

 このような手続きの流れで一番無難なのは、結論からすると、先に人身傷害特約を請求して過失分を満額回収できるようにすることです。

 ただ、一番無難であるとはいえ、このように手続きが進まない場合もあります。賠償交渉や訴訟をしてくださるご自身の弁護士によく相談した上で、慎重に手続きを進めてください。