任意社の意見書(もしくは情報)で被害者に等級が認めてもらえるよう推すケースが存在します。

 それでは実例(仮名)で説明しましょう。

 
 追突事故で頚椎捻挫となり、半年間、2日に1回の頻度で通院している被害者:又吉さんが相手保険会社:ピース損保から打ち切りを迫られています。ただし、又吉さんは詐病や心身症の問題のある被害者ではなく、有名な作家で社会的な地位もあり、収入も多く、ピース損保も乱暴な扱いはできません。

 ピース損保の担当者:綾部さんはなかなか治らず長く通院している又吉さんに「もう治療費は払えません、今後は後遺障害を申請したらいかがでしょうか?弊社も出来るだけの賠償金を提示します」と水を向けます。

 そこで又吉さんは言われるがまま、後遺障害診断書を主治医に記載いただき、綾部さんに託しました。

 綾部さんは自賠社に送達する際、「又吉さんは有名な作家です。神経症状が重篤で、後遺障害に値します」旨の情報を添えました。

 それを受けた審査先である自賠保険調査事務所ですが、もちろん、任意社の意見で左右されることなく、定型書類から厳正に審査をします。しかし、半年間に渡り被害者を見続けてきた担当者:綾部さんの意見を無視できません。大いに参考となるはずです。それが治療経緯・症状の一貫性を重視する14級9号なら最重要情報にすら思えます。

 ちなみに、自賠責の受付業務が民営化される以前の大らかな時代、センター長が調査事務所に電話して、「等級はどうなっているのか?」「なんとか○級はつかないか?」などと話をしていました。現在でも調査事務所から任意社に電話がかかってきて、「この(申請があがってきた)被害者って、どんな人?」などと聞かれることがあります。このようなやり取りは被害者請求でも同じです。何を言われるかわからない?だから「担当者とケンカするな!」と言っているのです。

・・・・

 そして、めでたく又吉さんに14級9号が認められました。綾部さんは早速、後遺障害(慰謝料+逸失利益)を加算した賠償金提示を行いました。その額は、

 通院慰謝料(567000円)+後遺障害(800000円)で合計1367000円です。

 さらに綾部さん、「即断してくだされば、上席に掛け合って150万円お支払いさせていただきます」とたたみ込みます。

 又吉さんも「100万円を超えているし、そんなものかな・・」と150万円で承諾しました。こうしてめでたく解決です。

 
 詳しい方はもうお解かりですね。実はピース損保、自賠責から通院慰謝料で55万円程度、後遺障害で75万円、つまり150万のうち130万円は自賠から回収できるので、任意社は20万円しか出費していないのです。このように対人担当者は、軽傷なら「自賠内で解決」、後遺障害でも「自社の支払いはちょっとだけ」が腕の見せ所です。そして本件の場合、綾部さんは又吉さんが弁護士に相談する前に急いで150万円提示、まさに火花の散るようなスピード解決を図り、成功したのです。

 もし、弁護士に赤本で計算されたら・・通院慰謝料89万円+後遺障害{慰謝料110万円+逸失利益100万円(年収500万として)}=合計 約300万円!

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 どうです?任意保険の担当者、なかなかの知恵者でしょう。本件のように、後遺障害が認められた方が賠償金が多くなるため、示談しやすいケースが起こります。また、長く通院される位なら後遺障害認定によって、解決スピードを上げることも可能なのです。そしてなんと言っても、自賠でほとんど回収できれば、(任意社の)自腹は痛まないのです。
 これは保険会社・対人担当者にとって普遍的な手法です。

 
 このように任意社一括意見書、総じて「事前認定」は奥が深いのです。単純な図式で語る法律家は”保険会社を知らない”のではないかと思います。
20061006
 しかし結論として、任意社の囲い込み、相手の土俵でいいようにコントロールされることは被害者の賠償交渉上、望ましいわけはありません。今回の例はあくまで例外と思って下さい。

 損害の立証は人任せにせず自らの手で行い、万事遺漏なきようしっかり精査し、そして、裁判基準の賠償金を手にして解決すべきでしょう。それが被害者の目指す”納得できる””実利ある解決”ではないでしょうか。
 その為にも任意社の一括意見書が有りうる「事前認定」を安易に選択しない方が無難と思ってしまうのです。