(今まで保険会社が判で押したように提示してきた)休業損害の計算方法について、以前から議論がありました。ついにと言うべきか、今年の『損害賠償算定基準2018・下巻』(いわゆる赤本)において、具体的な見解が示されました。今後の交通事故賠償のスタンダードになりうる算定基準と思います。連携弁護士K先生から、早速のご指摘がありましたので、同本より抜粋して勉強したいと思います。
 
 まず、問題点を簡単に説明します。

○ 保険会社が用いる、休業損害の計算方法とは・・

 事故がおきた日の前の月、前々月、その前月、の3ヶ月間の給与を合算し、それを90日で割った金額を「休業日額」とします。これに、実際に事故で休んだ日を乗じます。

(例)会社員の山本さんは追突事故でむち打ちになり、大事をとって、翌日から会社を3日休みました。その後も、週2回の通院の日は会社を休みました。2ケ月後に完治して示談となりました。会社を休んだ日は合計で15日でした。
 会社で書いてもらった休業損害証明書を保険会社に提出したところ、計算・提示してきた休業損害の計算式は以下の通りです。尚、山本さんの給与額ですが、ここしばらく毎月25万円でした。
 
25万円×3ヶ月=75万円 ÷ 90日 = 8333円(日額)× 15日(休んだ日)= 124995円 
 
 山本さんは、そんなものかなぁと印鑑を押しましたが。どうも釈然としません。なぜなら、日額の計算は、完全にお休みとなっている土日も含んでいます。本来、25万の月給は、土日を除いた週20日前後の業務に対しての賃金です。事故前の3ヶ月の出勤日は祭日もありますので、それをひくと(20日、22日、21日)でした。したがって、
 
25万円×3ヶ月=75万円 ÷ (20日+22日+21日=63日) =11904円(日額)× 15日(休んだ日)= 178560円 
 
 保険会社の計算に比べ、約5万円も高いのです。これが正当な計算ではないかと・・・
 
 これら計算方法による金額の違いが、長らく議論となっていました。 
 
 ここで、最新の裁判官の解説を見てみましょう。

 

給与所得者の休業損害を算定する上での問題点

武富 一晃 裁判官

1 給与所得者の休業損害算定における収入日額について、休日を含んだ一定期間の平均日額とする場合と休日を含まない実労働日一日あたりの平均額とする方法がありますが、どのような場合に、これらの方法によるのが妥当でしょうか。
 
1 休業損害の計算方法
 
交通事故関係訴訟の実務上、休業損害を算定する方法として、休業により現実に生じた喪失額を算定する方法と事故前の収入日額等の基礎収入に休業期間を乗じて算定する方法があります 。

 収入日額に休業期間を乗じて算定する方法としては、大別して、

(a)休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし(以下、このような基礎収入の計算方法を「計算方法 ➀」といいます。)、これに休日を含む休業期間を乗じる方法と、

(b)休日を含まない実労働日1日当たりの平均額を基礎収入とし(以下、このような基礎収入の計算方法を「計算方法 ②」といいます。)、これに実際に休業した日数を乗じる方法があります。計算方法 ②で算定される収入日額は、休日を含まない実労働日を基礎にするため、計算方法 ①で算定された収入日額以上の金額になるはずです。

(a)、(b)以外の計算方法として、

(c)計算方法 ➀で算定した基礎収入に実際に休業した日数を乗じる方法

(d)計算方法 ②で算定した基礎収入に休業期間を乗じる方法も考えられますが、正確に休業損害を算定しようとする場合、(c)の計算方法では過少に、(d)の計算方法では過大に損害額が算定されるおそれがあります。

 このうち、(d)の計算方法は、実労働日を基礎として収入日額を算定しているにもかかわらず、これに乗じる休業期間に休日等の実労働日以外を含むもので、不適切と考えられます。他方、(c)の計算方法については、訴訟において、被害者側が謙抑的に休業損害を請求したり、証拠上、計算方法 ②によって実労働日1日当たりの平均額を算定することができなかったりする場合があるため、この計算方法を用いることが直ちに不適切とはいえません。
  
 冒頭の例は(c)になります。計算方法 ①(休日を含んだ1日あたりの額)× 実際に休んだ日、です。

 保険会社は通常、この(c)方式の計算を原則としてきました。
 
 つづく