秋葉事務所では、交通事故被害者が労災も併せて請求できる場合、積極的にお手伝いをしています。自賠責で揃えた書類のコピーが使えますので、その申請作業など、行きがけの駄賃に等しいものです。

 後遺障害は労災と自賠、両方に請求はできますが、丸々二重取りはできません。どちらか先に入金した場合、片方は重なる部分を計算・控除します。これを、支給調整と言います。

 問題は労災7級以上の重傷者です。7級以上は一時金ではなく、年金払いとなりますので、支給調整の計算が困難です。そこで、特別給付金などの一時金は即時に支払われますが、年金は数年間、支給据え置きの措置となります。この据え置き年数は長らく3年でしたが、最近、改正されました。詳しくは、以下、労災の文章を読んでみましょう。(通達を原文のまま転載しました)

第三者行為災害事案に関する控除期間の見直しについて

{現状}

○ 災害事故が第三者の行為によって生じた事案については、被災労働者が、労災保険の請求権と第三者に対する損害賠償請求権を同時に取得する場合がある※。

※ 例えば、仕事中の交通事故について、被労働者が、労災保険の請求権に加え自賠責等の損害賠償請求権を取得する場合
 
○ 被労働者が第三者から損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険供給を控除することができるとされており、現行では控除を行う期間を3年間としている※。

〔控除期間が3年である理由〕

○ 労災保険法は被害者の保護を第一の目的としていることから労災保険給付の対象となっている災害について多年にわたる控除を行うことは労災保険法の制度の趣旨に反すること。

○ 長期にわたる控除は求償権の行使を災害発生から3年間としていることとの均衡を失する結果となること。

※ 労災保険法第12条の4及び「第三者行為災害事務取扱手続きの改正について」(平成17年2月日基発第0201009号)
  
{会計検査院の指摘事項}

○ 第三者行為災害に係る控除期間について、会計検査院から意見表示。(平成23年10月)

〔指摘事項〕 

・9都道府県労働局の平成20~22年度における年金支給停止解除事案(308件)について将来生じるおそれがある損害の二重補填は約42億円と推計され、個別には末調整額9,388万円に上るケースも存在(1件当たりの平均額1,400万円)。

・第三者等に対する求償権の行使は、被労働者が第三者に対して有する民事上の損害賠償請求権を国が取得することであり、民法第724条の規定に基づき時効期間が3年とされていることから合理性があるが、支給停止は、民事上の損害賠償請求権を行使するものではなく、求償権の行使の時効期間と均衡を図る必要はない。

・交通事故のうち人身事故に対する民事の損害賠償額も高額化してきていることから保険金等の額が支給停止額を大幅に上回り、支給停止限度額である3年を経過しても二重補填が長期化する可能性が高まっている。

・支給停止の制度の趣旨を踏まえて、被労働者の保護という労災保険給付の目的等も勘案して、支給停止解除後の二重補填額が多額に上ることを避けるための方策を検討するよう意見を表示する。
 
{対応案}・・・基本的な考え

○ 労災保険法第12条の4の趣旨は被労働者が保険給付と損害賠償から2重に損害が補填されることを避けること及び事故によって生じた損害を最終的に補填すべきである加害者に責任を負わせることにあり、2重補填となる額の全額が調整されるまで控除することが本来は合理的。

○ しかしながら、全額を調整した場合、控除期間は長期間にわたる※ことから、必要な期間、必要な補填を行うものとして年金給付を導入した労災保険制度の趣旨を反することになる。

※ 会計検査院の調査対象者に損害賠償額平均を完全に調整する場合には、10年間の期間延長(支給停止期間13年)が必要であり、個別のケースによっては62年間の期間延長(支給停止期間65年)が必要。

○ そのため、労災保険制度の趣旨を損なわない範囲内で、控除期間を延長することとする。
 
 〔控除期間の延長幅〕

○ 保険給付は支給要件が継続する限り支給するものであるが、受給権者が前払一時金を受給した場合、その額に達するまでの年金を支給停止することとしている。

○ このことから、前払一時金を支給した場合の年金給付の支給期間を考慮したものであれば、労災保険制度の趣旨に反せず、2重補填を解消することが可能。

○ 前払一時金支給の場合の年金給付の支給停止の最長期間は、遺族(補償)年金の前払一時金を受給した場合の約7年間。

※1,000日(遺族(補償)年金前払一時金の限度額)÷153日/年(遺族補償年金額(遺族一名の場合))≒7年
  
⇒ 前払一時金の支給停止期間を考慮し、控除期間を3年から7年に延長することとする。
 
(効果)控除期間を7年に延長した場合、一件当たりの平均額で試算すると、将来生じる可能性がある二重補填額約1400万円のうち、約4割(600万円分)の2重補填が解消される見込み。

(参考)平成22年度労災保険給付において障害(補償)年金及び遺族(補償)年金の平均受給期間は、それぞれ31.21年度及び36.04年。
 
[参照条文・関係通達]

〔参照条文〕
○ 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)(抄)
 第十二条の四 政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
2 前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。

○ 民法(明治二十九年法律第八十九号)(抄)
 第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
 
〔関係通達〕
・平成17年2月1日基発第0201009号「第三者行為災害事務取扱手引の改正について」
 第1章 第三者行為災害の事務処理
 第1節~第4節 (略)
 第5節 控除
 1、原則的控除方法
(3)控除を行う期間は、災害発生後3年以内に支給事由の生じた労災保険給付であって、災害発生後3年以内に支給を行うべき労災保険給付を限度として行うこと。(中略)

 ① 労災保険法は第一当事者の保護を第一の目的としていることから労災保険給付の対象となっている災害について多年にわたる控除を行うことは労災保険法の制度の趣旨に反すること

 ② 長期にわたる控除は求償権の行使を災害発生から3年間としていることとの均衡を失する結果となること等から災害発生日より3年経過後においては必要な補償を必要な期間行う適当であると考えられるためである。
  
第6節・7節 (略)
 
第2章 (略)
  
参考:控除期間を7年にした場合の二重補填の解消額計算

○ 平成22年度の労災保険給付の支払件数は約530万件。

 このうち、第三者行為災害事案に関する支払件数は約44万件(労災保険給付の支払件数の約8.3%)。 <出所:労災行政情報管理システムより抽出。>
 
○ 第三者行為災害事案の内訳は次のとおり(支払件数ベース)。

・自賠先行の関するもの 36.9%
・労災先行に関するもの 46.8%
・その他(※)     16.3%

※ 自転車事故、他人の暴行、同僚の加害行為(機械の運転ミス等)によるもの等であり、ほぼ労災先行と考えられる。 <出所:労災行政情報管理システムより抽出。>
 
○ 災害発生から3年が経過し労災年金の支給停止が解除された事案は、1年度当たり約54件(※1)。これらについて将来生じる可能性がある損害の二重補填は最大で約74億円(※2)

※1 会計検査院の検査結果(富山、京都、大阪、山口、香川、高知、佐賀、長崎、鹿児島)によると、平成20~22年度における年金支給停止解除事案は308件。したがって、全国規模では1年度当たり、308÷3年÷9局×47局=約540件の年金支給解除事案が発生。

※2 上記調査により確認された308件において、将来予想される二重補填額は約42億円。全国で1年度当たり540件の年金支給停止解除事案が発生した場合、当該事案について将来生じる可能性がある損害の二重補填は最大で約74億円(308件で約42億円を540件に換算)。
 
○ 年金支給停止解除事案から1年当たりの給付額を算出し、二十補填の解消分を試算したところ、支給停止期間を7年(4年間延長)とする場合は、上記74億円のうち約27億円の二重補填が解消される見込み。

 一件当たりの平均額で試算すると、将来生じる可能性がある二重補填額約1400万円のうち、600万円分の2重補填が解消される見込み。