通勤災害で多く寄せられる定番の質問です。
 
(Q)退勤途中、食事をした後に交通事故受傷したが、通勤災害になるでしょうか?
 
 社員の山本さんが帰宅の途上で、交通事故受傷し入院したのですが、通勤経路にあるラーメン店に立ち寄り、食事をした後の交通事故受傷でした。退社は定時の5時30分、徒歩で400mほど離れた有楽町駅に向かう途中です。夕食まで待てないのでラーメン一杯、瓶ビールを一本空けました、時間にして30分くらいです。

 その後、有楽町駅から電車で戸塚駅に向かい、そこから徒歩で自宅に戻る途中に交通事故受傷したのです。 なお、山本さんには妻子がおり、いつもなら夕食は自宅で摂っていると思われます。
 
 
(A)これは労災保険法7条の2、「通勤の逸脱、中断」に該当するかが検討されます。
 
 まず、原則、寄り道は”通勤の逸脱・中断”ですので労災はダメです。
 
 例外扱いとなる寄り道について、3つの点から検証してみましょう。
 
1、7条の2の但書には、「日常生活上必要な行為であって、労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの、」については、通常の通勤の経路に服した時点から通勤災害の適用がなされることとなっています。

 例えば、お弁当屋さんでの惣菜の購入や、クリーニング店でYシャツを受け取るための合理的経路による回り道は、”日常生活上必要な行為”に該当します。また、病院など治療機関への立ち寄り通院も”やむを得ない事由”に入ります。治療行為は歯医者含め、だいたい範囲内ですが、OLがエステやネイルに寄る、また、単なるマッサージは除外されると思います。これは”やむを得ない事由”ではなく、”自分へのご褒美”だからです。(我ながら上手い事を言う)

 飲食店での食事、飲み屋は単なる寄り道で、通勤行為からの逸脱ですから該当しません。

 スポーツジムや習い事(※)、映画・観劇なども、明らかな寄り道、”通勤行為からの逸脱・中断”とみなされます。 ※ 例外的に職業訓練学校はOkのようです。
   
2、飲食が寄り道となる一つの判断基準に、「腰をかけての飲食か?」が問われるようです。本例は「腰をかけて」になるので、この点から基準を外れます。

 おおむね、売店でのパンの立ち食いや、自販機で缶ビールを買って飲む程度は、通勤行為の逸脱とはみなされません。では、すべて「腰をかけて」いなければOKでしょうか? 例えば、立ち飲み屋ですが、これは程度問題で、飲酒量(おおむね1杯程度ならOK?)や滞在時間によって判断されるようです。

 本例が仮に立飲み屋さんへの寄り道だった場合、「ビールを1本=数杯」「およそ30分」でしたから、これも程度を超えるものと判断されます。つまり、通勤は中断(会社帰り⇒飲食店の帰り)となります。
  
3、さらに、本例の場合は、妻帯者の山本さんに帰宅途中に食事を摂らなければならない合理的な理由があったのかどうか、 実につまらないことも争点となります。

 残業で遅くなったのであればともかく、定時退社で、有楽町から戸塚まで、この40分位は深刻な(お腹が空いて倒れちゃう)時間的経過でもありません。この点、お役人は杓子定規ですから、合理的な説明がなされない限り、逸脱・中断と見なされれば、それ以降に発生した交通事故受傷について、通勤災害の適用がされない可能性が大きくなります。
 
 例外的に、座っての飲食が通勤行為に含まれるケースもあります。独身・独居者で、日常的に会社帰りに外食で夕食を済ませている人は、通勤行為からの逸脱・中断とならない可能性があります。社内食堂ならまず大丈夫です。これは、合理的な説明が可能だからです。

 また、事情はどうであれ、コンビニなどでの買い物は「日用品、かつ、短時間」なので問題ありません。飲食も立ち食い蕎麦などで「食べるだけ、かつ、ごく短時間」であればセーフとなる可能性が大です。

 それでは、「連日、キャバクラ通い(で夕食)?」、「終業後は同僚と居酒屋がマスト?」、「彼女と毎晩ディナー?」、「アフター5は友人とお茶して帰る?」、「家電マニアなので、家電店に寄ることは日課?」、これらはそもそも腰をかけた滞在であり、腰をかけなくても立派な(?)寄り道ですから当然にアウトですが、念のため、”合理的な説明”は可能でしょうか?

 ・・・その人にとっては日常的でも、やはり、客観的に”日常生活上必要な行為”と判断するには無理があります。滞在時間もそれなりにかかりますし、これらはイベント的な寄り道とみなされます。この通り、日常的に必要か否か、寄り道の性質も問われているのです。

 この手の判断はケースbyケースで説明されることが常ですが、確かに労災は個別に検討しています。

 通勤行為に含まれる寄り道か否か・・・その事情の説明が運命を分けるようです。