肩関節の可動域制限:10級10号が認定された、Dさんの例もチェックしておきましょう。
 

段落

本 文

解 説


 自賠法施行令別表第二第10級10号に該当するものと判断します。  結果は最初に書かれます。


 左鎖骨遠位端骨折、左肩鎖靭帯断裂、左肩筋委縮に伴う左肩関節の機能障害につきましては、  これは診断名からの抜粋です。骨折の部位、損傷した靭帯が正確に記載されています。
 左肩筋委縮は自覚症状でも「左肩が極端にやせ細ってしまった」と記載されています。

 後遺障害診断書上、その可動域が健側(右屑関節)の可動域角度の1/2以下に制限されていることから、  関節可動域制限の数値を記載のまま認めています。判定は自動値ではなく、他動値(計測の際、計測者が手を添えて行う)です。

 すんなり認定された場合は、即結論となります。

 「1上肢の3大関節申の1関節の機能に障害を残すもの」として別表第二第10級10号に該当するものと判断いたします。

 なお、左肩痛の症状につきましては、前記等級に舎めての認定となります。  同一箇所、同一傷病名から付随する痛みやしびれ、その他の症状は上位等級(この場合10級)に含めることになります。
 ここも毎度おなじみ、紋切型文章です。

 
 医学的に、鎖骨の骨折により肩関節の可動域が制限されることはありません。ただし、鎖骨の骨折部が遠位端、つまり肩関節に接する部分である場合の影響は想定されます。そして鎖骨と肩関節をつなげる肩鎖靭帯が断裂していたこと、肩周辺の筋委縮が顕著であったことをもって、肩関節の大幅な可動域制限を信用してもらえたと言えます。

 同様に肩腱板損傷で腕が挙がらなくなった場合も、肩腱板を構成する、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋が相当の断裂があることが条件と言えます。10級のような動きが半分まで制限される断裂とは、手術をするかどうかを検討する深刻な状態です。MRIで微細な損傷を描出しても、その損傷次第で12級13号の可能性を残しますが、多くは14級に落とされた判断となります。


 もう一つ、重要なポイントがあります。腱板損傷、靭帯損傷が顕著であれば、受傷から半年も経つと、多くの場合、周辺に筋委縮が起きます。これも他覚的所見として、重視されます。Dさんの場合、見た目でもわかるので写真を添付しました。10級のような高度な障害を立証するためには、いささかも手を抜けないのです。
 
 「可動域制限で〇級がとれる!とある弁護士(行政書士)に言われました」・・・最近の相談者でよく見かけます。計測値だけで予断してしまう専門家(本当に?)が多くて困っています。毎度「受傷部位と状態を確認してからではないと判断できません」とたしなめます。
 
 4回にわたって続けた可動域制限シリーズでしたが、これは他の部位の可動域制限にもすべて応用ができる考え方、まさに神髄です。しかし、これはあくまで原則論、なかには受傷部位や状態がそれほど悪くなくても、ひどい可動域制限に苦しむ被害者もおります。何事にも例外があるもので、これらの被害者さん達を救う事が私たちのもう一つのテーマでもあります。また別の機会で取り上げます。