この病院は、患者本人が閲覧を申込み、そのうえで開示分の請求を行います。被害者と共に病院へ出向きました。

 ずいぶんと解決が長引いている件です。事故日が平成17年4月26日です。高次脳機能障害が否定された被害者さんですが、否定の理由は「高次脳機能障害の3要件」を満たしていないからです。

高次脳機能障害認定の3要件

①傷病名が以下のように確定診断されていること
・脳挫傷・ びまん性軸策損傷・びまん性脳損傷・急性硬膜外血腫
・急性硬膜下血腫・外傷性くも膜下出血・脳室出血
・骨折後の脂肪塞栓で呼吸障害を発症し脳に供給される酸素が激減した低酸素脳症

② ①の傷病についての画像所見
・XP  ・・・頭蓋骨骨折とそれに伴う脳損傷を確認できます。
・CT  ・・・冠状断といって輪切りにスライスした画像を確認します。連続した画像は脳委縮の確認が容易です。
・MRI ・・・T2フレアーなどで点状出血や脳委縮等、病変部を確認します。

③ 頭部外傷後の意識障害が少なくとも6時間以上続いていること、もしくは健忘症あるいは軽度意識障害が少なくとも1週間以上続いていること

 まず画像所見で明らかな病変部が確認できない。受傷後の意識障害が不正確に記録されている。・・・かなり絶望的ですが、被害者を観察した複数の医師が脳の障害を認めています。私の観察でも、前向性記憶障害(新しいことが覚えられない)、ワーキングメモリーの不能(暗記ができない)が特に目立ちます。しかし症状がいくら重篤でも「3要件」を満たしていない以上、障害はないはず、とされてしまいます。

 現在は自賠法に照らした認定は断念しています。もっとも自賠責への請求は「時効」となっておりますので、訴訟上で戦っていくことになります。
 今まで、ご本人の障害、とくに記憶障害が障壁となり、本人でうまく進めてこれなかったのです。想像して下さい、新しいことが覚えられない人が、単独で障害の立証や手続きを進めていくことができるか?何から何まで後手に回って、現在に至ってしまったのです。今更のカルテ開示ですが、病院のカルテの保存期間は5~7年ほどです。破棄される前に慌てての作業です。そして難しい裁判は数年間続くでしょう。

 このような苦しい戦いは絶対に避けたい。

 事故で脳に障害を負った場合、家族、周囲の協力は絶対に必要です。そして「回復するはず」の希望とは別に、冷静に障害を把握する作業を怠ってはダメです。

 常に早めのご相談を訴えているのは、このような苦しい戦いを何度も経験しているからなのです。