(旧会社名)東京海上さんが平成23年に、続いて損保ジャパンさんも翌年の約款改定で交通乗用具(への補償)を廃止しました。24年内に、各社も続きました。しかし、三井住友さん、あいおいさん、日新さん、AIG(富士火災時代から)、全労災までも(?)が、何故か堅持しています。

 このシリーズの冒頭にも言いましたが、廃止の理由はリザルト(損害率=支払保険金/掛金)の悪化とされます。では、堅持してる会社はそれが保てているのでしょうか?

 某保険会社の社内資料、「交通乗用具廃止のお知らせ」には、より詳しく説明されています。それは、「人身傷害の自転車単独事故での支払が増えたこと、それも、事故状況に疑いが残るものが大半」とのことです。私も、廃止の真の理由は、偽装請求が多発したことが大きいと思っています。その、某保険会社が以下のように例示しています(注意すべき情報の為、事故内容は脚色します)。
 
○ 詐欺が疑われる手口
 
(例1)自転車走行中に転倒、アキレス腱を断裂しました

Aさん、休日に自転車でテニスに行って、その帰宅中に自転車が転倒して受傷、病院に入院しました。診断はアキレス腱の断裂で、治療費(手術費用・入院費用含む)と、休業損害、該当期間の慰謝料を請求、保険会社はAさんが加入する自動車保険の人身傷害(交通乗用具)で支払いました。事故に関する証明は、診断書と本人記載の事故状況説明書のみです。

しかし、担当者は疑惑を持っています。本当に自転車の転倒なのか? 自転車転倒の目撃者はいません。また、この契約者さんは過去に、テニスでアキレス腱を何度か痛めたことがあるそうです。本件事故の当日もテニスに行っています。ゲーム中にケガをしたのでは?とも考えられます。友人とのゲームですから(友人が口裏を合わせれば)第三者的な目撃者もいません。結局、Aさんを信じるしかありません。
 
(例2)歩行中、自転車と接触・転倒、手首を骨折(橈骨にひび)しました

Bさんは会社の昼休み、お弁当を買いに行く際、路上で自転車がすれ違いざまに接触して転倒、右手をついて骨折しました。レントゲンを撮ったところ、亀裂骨折がありました。病院ではシーネで固定を行い、3ヶ月の通院となりました。これも同じく治療費と、1ヶ月の休業補償、該当期間の慰謝料を請求、保険会社はBさんが加入する自動車保険の人身傷害(交通乗用具)で支払いました。事故に関する証明は、診断書と本人記載の事故状況説明書のみです。

これも疑惑が残るものでした。加害自転車は逃走し、真昼間だというのに事故目撃者もいません。事故の翌日、痛みが激しかったので病院に行ったそうです。事故の経緯自体は不自然ではないかもしれません。しかし、会社内あるいは野外で、歩行中に単独で転んだ可能性も否定できません。この契約者さんは、過去に4回、転倒による傷害保険の請求歴があります。それで、他社の傷害保険ですが、引き受けを謝絶されたことがあります。何度も何度も事故で請求を繰り返す・・・保険会社もごく普通に疑いを持ちます。

  

 この2例に共通することは、受傷者のみが「自転車がらみで事故に遭った」と言っている点です。これが、対自動車であれば、警察の介入があり、後に事故証明書が発行されます。つまり、警察や加害者が存在しますので、客観的な証明が確保されます。対して、自転車単独の事故で一々警察に事故連絡するでしょうか。また、当て逃げ、ひき逃げの場合も警察に届出はしますが、軽傷では捜査もおざなりになります。死亡・重傷事故ならまだしも、せいぜい「ひき逃げ目撃情報を・・」の看板が立つだけです。偽装事故なら、そもそも目撃者など存在しません。
 
○ 誰が「ざる保険」にしたのか

 人身傷害保険の交通乗用具、その自動車を介さない自転車絡みの事故は、このように「ざる保険」なのです。いくらでも、偽装事故で保険金をせしめることができます。自転車でコケたと言って、打撲・捻挫程度での通院ならば、いつでもどこでも、気軽に請求可能です。ここでも、素人のチョイ悪共が大した悪気もなく、重罪であるはずの保険金詐欺を容易に実行するのてす。東海日動、損保ジャパンは「これは、保険にならん!」と廃止を決定したのだと思います。

 あたり屋、職業的詐欺集団も許せないものですが、素人のズルい保険請求による支払額の方が、全体としてはるかに甚大ではないでしょうか。プロの詐欺師は警察や保険会社にマークされますから、いずれ捕まるか、撤退します。対して、それこそ大多数である一般の保険契約者の不正請求は、約款を変えるほどの破壊力を持つのです。保険会社の対策としては、疑わしい契約者を更改契約で謝絶していくことになります。しかし、次年度は保険会社を変えて、目敏く約款の隙を突いて不整請求を画策してくるでしょう。
 
 弊所でも、自転車に関わる悲惨な事故を何度も受任しています。毎度、「人身傷害の交通乗用具があったならば・・」と痛感しているのです。せっかくの良い保険ですから、契約者全体で大事に保護(?)していかなければなりません。そのためにも、保険会社・代理店様はもちろん、弁護士はじめ交通事故に関わる全ての業社は、不正請求者に対し、業界全体で厳しい監視をしていく必要があると思います。いつだって彼らは、保険会社の横暴を訴える気の毒な被害者を装って、私達に助けを求めてくるからてす。