今日は弁護士と保険会社の交渉でありがちなパターンを解説します。

 治療も終了し後遺障害も確定した後、弁護士に交通事故解決を依頼しますと以下の流れになります。

1、弁護士は被害者から損害賠償請求の委任を受けたら、まず加害者(の保険会社)に賠償請求書を送ります。 「私の損害はこれこれだから、赤い本の基準にのっとり、これだけ下さい」、まず請求の趣旨、根拠、請求金額を伝えます。

2、対して相手側、多くの場合、相手の保険会社担当者から返事がきます。

 「弊社の考える損害はこれこれだから、弊社基準により、これだけなら払えます」、保険会社の査定と独自基準、支払可能金額の回答があるわけです。

 最近の保険会社は「これこれ」の部分についてしっかり明示せず、「先生、請求額の8割でどうでしょうか?」と回答してくるケースが多いそうです。何故、8割か?きちんと理由、査定の根拠を説明してほしいのですが・・・。これは被害者に代理人(弁護士)がつき、赤い本基準での請求があった場合の紋切型の回答です。根拠をただすと、「訴外交渉ですから」と答えます。

 「訴外交渉」とは訴訟で解決せずに話し合いで解決することです。つまり裁判のようにお金と時間をかけて交渉するわけではないのですから、「少し負けてよ、先生」ということです。なるほど保険会社の言い分も解らないでもありません。しかしここからが弁護士の力を発揮する場面です。おおむねAとB、2つの弁護士に分かれます。

A弁護士:「分かりました、では交渉決裂なので訴訟、もしくは紛争センターの斡旋にふしましょう。私も被害者も徹底的にやる方針です。長いお付き合いになりますね。

保険担当者:「待って下さい!少し上の者と検討します」 → 上司と相談します。つまり決済を仰ぎます。

保険担当者:「わかりました。請求額全額をお支払します。」

{解説}
事故の内容、損害が明確ならば、どうせ赤本の満額を取られるので時間の無駄と判断、結局弁護士の請求額通り100%支払うことがあります。この傾向は国内大手の保険会社にみられます。しかし外資系損保は担当者とその上司の決済額が低く、訴訟や斡旋に付さないとなかなか請求額を認めません。

 ではもう一つのパターン。

B弁護士:「80%ですか・・・では被害者と相談して回答します」→80%ならすぐ解決できますと被害者に話をします。

被害者:「よくわからないので先生にお任せします」  ~それから~

B弁護士:「被害者と相談の結果、それでOKです」

保険担当者:「ではすぐ手続きします。先生ご苦労様でした。」

{解説}
実際はこのパターンが多いのです。低く支払いたい保険会社と早く解決したい弁護士の利害が一致しているのです。被害者は事故の解決方法や賠償の相場がよくわからないので全面的に弁護士にゆだねてしまいがちです。しかし現実は70%程度でサクサク解決を図っている弁護士事務所すらあります。保険会社も弁護士事務所をみて、「ここは70%で行ける」と値踏みしています。

弁護士を使わず、被害者本人が紛争センターで斡旋を受けた方が多いのでは?と思うような数字も見たことがあります。

       足元を見られている? 

 実はA弁護士、「裁判等までやるぞ!」は本気ではないのです。交渉上、保険会社の満額回答を引き出すためのブラフ、テクニックなのです。まさに代理人として交渉してくれました。対してB弁護士の仕事は保険会社との代理交渉と言うよりは、単なる保険会社と被害者間の調整係です。弁護士の資格のみを活かした楽~な仕事です。計算だけで完了するクレサラ方式(ここ数年隆盛した過払金返還請求の手続き)の交通事故版です。このクレサラ方式は60~70%の妥協で早期解決&大量処理を目指す、極めて合理的な経営方針と言えます。これが被害者の意向と一致していればいいのですが・・・。
 まぁもっとも最悪なのは交通事故裁判や紛争センターの経験薄く自信がない・・・この理由で示談交渉に特化している弁護士ですけど。

 被害者の皆さんも弁護士を選ぶ際、どのような交渉方法、戦略で臨むか、弁護士にしっかりと聞きこんで下さい。弁護士でも違いがあるのです。交通事故の場合、B方式に流れる弁護士が多いのですから。結局、自分を守るのは自分ですよ。