平成23年3月に国土交通省が「高次脳機能障害認定システムの充実について」を発表しています。
 この報告書により、認定基準の修正、新基準、医学的見地の整理が公表されました。以前から主張していますが、平成13年(15、19年修正)に認定基準がやっと形作られた分野なだけに、まだ確立しているとは言い難いのです。

 現実、明らかな症状を示しても、頭部外傷の画像所見が乏しいため入り口で非該当の患者が後を絶ちません。またMTBI(軽度外傷性脳損傷)との区別も医学的見地のばらつきから曖昧なままでした。 
                             
  現在も旧認定基準のハードルを越えられなかった被害者を2名担当しています。この方々の再申請に今回の改定がどのように影響するのか?目下私にとって最重要課題なのです。今日から数回、新基準の内容を精査、考察を進めていきたいと思います。

 まずは公示内容を読んでみましょう。

平成23年3月4日 自動車交通局保障課

自賠責保険の高次脳機能障害認定システムが充実されます

~「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」報告書が取りまとめられました~

 自動車事故によって「脳外傷による高次脳機能障害」を負われた被害者は、自賠責保険(共済)での後遺障害認定を受けた後、自賠法に定められている支払基準に則って保険金等の支払いを受けることとなっています。自賠責保険における高次脳機能障害認定システムは、平成13年から実施され、その後、平成15年、平成19年と充実を図ってきたところです。今般、「前回見直しから3年以上が経過している」、「現行の認定システムでは認定されないものが存在するなどの指摘もある」ことに鑑み、平成22年7月に損害保険料率算出機構に対して検討を指示し、同年9月に同機構内に検討委員会が設置され、外部専門家の意見陳述、委員の意見発表、文献のレビュー等を踏まえた検討が行われ、本日、報告書が取りまとめられました。

報告書のポイントは、以下のとおりです。

1.「脳外傷による高次脳機能障害」の医学的な考え方の整理

(1)軽症頭部外傷後の高次脳機能障害

 WHO の報告(MTBI)に関する2004年以前の医学論文の系統的レビューを踏まえた診断基準や考察)を参考にするとともに、それ以外にも内外の各種文献、外部専門家の意見陳述や委員による軽症頭部外傷患者の臨床例等も踏まえると、①MTBIの受傷直後に把握される障害は、大多数の患者で3か月から1年以内に回復する、②一部の患者で症状が遷延することがあるが、心理社会的因子の影響によるという考え方が有力、とされていること等から、軽症頭部外傷後に1年以上回復せずに遷延する症状については、それがWH0 の診断基準を満たすMTBI とされる場合であっても、それのみで高次脳機能障害であると評価することは適切ではない
 ただし、軽症頭部外傷後の脳の器質性損傷の可能性を完全に否定できないという医学論文も存在することから、このような事案における高次脳機能障害の判断は、症状の経過、検査所見等も併せ慎重に検討されるべきである。

(2)脳機能の客観的把握(画像診断の進歩について)

 脳の器質的損傷の判断にあたっては、従前と同じくCT、MRI が有用な資料であると考える。ただし、これらの画像も急性期から亜急性期の適切な時期において撮影されることが重要である。
 なお、CT、MRI で異常所見が得られていない場合に、拡散テンソル画像(DTI)、fMRI、MR スペクトロスコピー、PET で異常が認められたとしても、それらのみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない

2.現行認定システムの修正等

(1)審査の対象とする条件の明確化

 高次脳機能障害事案として審査の対象を選定するための現行の5条件については、意識障害や画像所見など一部の条件に達しない被害者は、現場の医師に高次脳機能障害ではないと形式的に判断されているおそれがあるのではないかとの指摘があったことから、軽症頭部外傷の被害者が審査対象から漏れることのないよう記載方法を修正する。

(2)調査手法の改善

 脳外傷による高次脳機能障害を的確に後遺障害等級認定するためには、意識障害の程度・期間を適切に把握することが重要であることから、照会様式の一部改正を行う。

(3)症状固定時期の考え方

 被害者が学齢期前の小児の場合、その成長・発達に伴い、社会的適応に問題があることが明らかになることで、被害者に有利な等級認定が可能となる場合もあることから、そのような要素があると考えられる事案については、社会的適応障害の判断が可能となる時期まで後遺障害等級認定を待つという考え方もあることを周知することが望ましい。

3.関係各方面への周知

 脳外傷による高次脳機能障害が、依然「見すごされやすい障害」であることを踏まえ、被害者、医師、医療機関等に対して、リーフレットの配布、医療機関向けの解説書の改訂・配布、学会等の場で高次脳機能障害の後遺障害等級認定に関する情報提供を行うなど、広く啓発活動を行っていくことが望まれる。
 損害保険料率算出機構では、上記の検討結果に沿って自賠責保険の高次脳機能障害認定システムの充実に向けた見直しを実施し、平成23年4月から、見直し後の認定システムによって高次脳機能障害の認定審査を行うこととしています。

なお、報告書は同機構のホームページで紹介しています。

http://www.nliro.or.jp/service/jibaiseki/tyousa/qa.html