前回、「高次脳機能障害認定システム」の改正前後を比べました。先に結論をもってきた形です。この「高次脳機能障害認定システムの充実」は現行システムの問題点について、専門家の委員会による合計9回の論議がもとになっています。そこから改正の骨子となった、医師の意見を具体的に取り上げていきます。
 
 それでは前回の予告通り、「画像」について。最も重要な立証資料であることはかわりませんが、ではどの画像検査が必須なのか?臨床の医師も損害立証による画像はどれを要求しているか知りあぐねています。また立証する立場において、全国の弁護士も取りあえず撮ってあるものだけ提出し、あまたの行政書士も交通事故110番のマニュアル本を参考に進めるしか手段がありません。
 必要な画像検査とは何か?読み取ってみましょう。

 井田医師の意見に対して解説を加えていきます。
 

【井田医師の意見陳述】 

井田医師は画像診断学が専門である。当委員会の検討対象となっている、軽症頭部外傷後の後遺障害が器質性のものであるか否かについて、最新の画像診断技術によりどこまで判断が可能なのかについて、実際の画像を参考に説明を行った。
 
① 現在の画像診断の主役はCT、MRIであるが、画像診断において重要なことは、適切な時期にきちんとした検査が行われるということである。
 
 (解説)
 どんな脳神経外科でも受傷直後にCTもしくはMRIで脳損傷を観察するはずです。そこで医師に「脳は異常ありません」と言われると家族は一安心です。しかしその後も意識障害や記憶障害が続くようなら、続けてこれらの検査を依頼すべきです。
 高次脳機能障害をよく知らない医師に出くわしたばかりにそのまま画像所見なしとなってしまったケースを経験しています。
 この時期の画像所見が症状固定、後遺障害認定までこの先ずっと付きまといます。

 
硬膜下血腫、受傷1週間後。血腫に押された脳の様子がわかります。
 

② 今後、微細な外傷の診断にあたっては、MRIの撮像法である拡散強調画像(diffusion-weighted imaging : DWI)および磁化率強調画像(Susceptibility- weighted imaging : SWI)が有用となると考えられる。
 
③ DWIを用いることにより、CTや従来のMRIで確認できなかった脳損傷が証明できる可能性は高まると考えられる。急性期の落ち着いた段階(受傷2~3日日)でMRIを撮影し、客観的な証拠を捉えることが大切である。
 
④ SWIはT2*(スター)強調画像の原理に加え、従来用いられていなかったMRIの位相情報を併せて、より磁化率を強調しようという方法である。SWIの利点は、造影剤を使わずに静脈を映し出せるということおよび微細な出血(ヘム鉄)を検出することができるということである。
 
⑤ 外傷によりMRIを撮影する施設はあまり多くないが、外傷、特に軽微な脳挫傷の診断、軸索損傷の診断に対し、DWIはT2、TI、FLAIR、CTと比較して圧倒的に有用である。問題点は、多くの医療機関において急性期~亜急性期にMRIが施行されることが少ないということである。
 
解説)
DWI
・・・MRIの一種で脳細胞内の水分子の動きを画像化し、脳梗塞や感染症などを知るために使用するものです。コンピュータ断層撮影 (CT) で描出できない、超急性期または急性期の脳梗塞診断に非常に有用で、救急医療で広く用いられています。

SWI・・・直訳すると「磁化率強調」。SWIは単に磁化率効果によるT2信号減衰を画像化したものではなく、強度画像に位相画像(磁化率変化による位相差)を乗じて画像コントラストを強調する。位相差は高磁場装置ほど大きいので、SWI には3.0Tesla 装置が有用です。

 説明を読んでも何のことやらわかりません。科学的な理解は諦めるとして、これだけは・・・いずれも脳内部の、脳血管の、微細な損傷を描出するのに優れています。

   
   MRI(T2)では写らない前頭葉から右側頭葉にかけての虚血状態がDWIで描出されています。
 この写真では少々見づらいですがDWI一番左の画像の上~左側(上から見て右頭)に黒ずみが・・

 CT、MRIで明らかな脳損傷が見当たらなく、急性期(受傷~3日、せいぜい1週間)に脳萎縮、脳室拡大、点状出血等の器質的損壊が描出されなければアウトです。
 脳神経外科医は病気としての脳梗塞、くも膜下出血に毎日立ち向かっています。続々と急患が押し寄せる中、命に別状のない患者の後遺障害推定に時間をかけていられません。本当に超多忙なのです。びまん性軸索損傷による微細な脳損傷、脳血管の損傷について、正確な読影、診断が及ばず見落とすことは想像できます。
 

 少し難しい話につきあって頂いてます。しかしよくあるうんちく系HPのように知識のみを滔々と語るだけでは意味がありません。これらが検査可能な病院を確保しているか?・・・損害・障害を立証する法律職者(プロ)の力が試されます。  現在DWIは可能、SWIは調査中です。