続いてMTBIについて、今委員会における専門医の意見を見てみましょう。

【片山医師の意見陳述】

 片山医師は脳神経外科学が専門である。当委員会の検討対象となっている、1回限りの軽症頭部外傷により遷延する重篤な症状あるいは障害が発生することがあるかという点について説明を行った。

課題1:一度だけのMTBIにより、遷延(3か月以上)する重篤(社会生活が困難)な症状あるいは障害が発生することがあるか?

a.受傷直後から数日ないし数週間までは、頭痛やめまいなどの愁訴や、記憶障害および注意障害、不安および抑うつなどの症状が持続することがある。

b.これらの症状は、受傷後しばらく脳の機能的障害および器質的障害の影響を受けるために起きると考えられる。

c. しかし、これらの症状は徐々に軽快し、一般的には3か月以内に消失する。ほとんどが受傷後3か月から12か月以内に回復する。

d. ただし、一部の患者ではこれらの症状が遷延したり遅発したりすることがある。

(解説)
 原因について「器質的損壊」とは言及しないものの、「器質的障害」の影響としているところに注目です。しかし症状は一部の例外を除いて3か月から12か月以内に回復する、としています。
 あくまで一過性の症状なのか。では長く症状が続く場合、その原因は?
 

課題2:現実に症状の遷延や遅発の事例は、脳損傷に起因するものといえるか?

a. 遷延ないし遅発する症状の原因を、脳の器質的障害(脳損傷)に求めることはできない。

b.遷延ないし遅発する症状には、脳損傷とは関係のない要因が絡んでいると考えられて いる。これには、身体的(疼痛など)、精神的(外傷後ストレスや不安ないし抑うつ)、人格的(行動性向など)、社会的(家族や職場などでのストレス、訴訟や補償など)な要因が含まれる。

c.しかし、軽症頭部外傷による脳の機能的障害ないし器質的障害(脳損傷)による症状が消失する前に、これらの要因が絡むことによって、症状が遷延したり遅発したりした ときには、軽症頭部外傷を原因とする症状と見倣すべきであるという考え方もある。

(解説)
 脳損傷であることをきっぱり否定です。他の痛みから派生する、精神的なもの、その人の性格や被害者意識が原因であると分析しています。また、心因性の障害であるとしても、長引くその症状のきっかけとなった、との見方もあります。これは解釈論であって白黒つく話ではありません。いずれにしても「脳損傷のない脳障害はない」と断定しています。
 

課題3:特に、受傷による意識障害がなく、形態画像でも脳損傷を検出できないような場合はどうか?

a.意識障害や記憶障害などを起こしていなければ、器質的脳損傷を起こすことはないと考えられる。

b.このような場合、遷延ないし遅発する症状の原因を、脳の器質的脳損傷に求めることはできない。

(解説)
 意識障害がなく、健忘(記憶障害)もなければ、脳損傷があるいはずがない。だから症状の継続の原因は脳損傷ではない。この見解はぶれていません。現状の高次脳機能障害の認定基準とは一線を画すものということになります。
 

脳損傷の有無によって高次脳機能障害とMTBIは明確な区別がされています。この認識は変わっていません。 そして「一過性であること」、「回復するもの」、「精神的なもの」と断定しています。