毎月のように高次脳機能障害の被害者が相談にやってきます。まず最初にご家族から相談がもちかけられる事が普通ですが、本人が単独で相談に見えることがあります。
 はたしてこの方は高次脳機能障害なのか?ご自身で電車を乗り継いでやってくるわけですからそれほど重篤と思えません。お話しを伺ってもよくわかりません。同居のご家族の観察や意見をきかないと判断できないのです。

 何故か? 以下解説します。

 経験上、「私は高次脳機能障害です」と自覚している方は稀です。ほとんどが、「何かおかしい」、「家族からおかしいと言われた」位の認識です。高次脳機能障害の障害者の最大の特徴は「病識の欠如」です。「病識」とは自分が脳のケガで、認知や記憶の障害を負っていると自覚していることです。
 はっきり自覚・自己診断している人は ×障害者 → ○心身症 と思えてなりません。

 話を戻します。このように稀に単独で訪ねてくる相談者には「よくわかりません、家族と一緒にまた来て下さい」と家族の同伴の上、再来を求めます。そして後日家族からの聴取によって記憶障害や性格変化のエピソードが語られ、やっと障害ありとの認識に至ります。
 そして今後の立証作業にご家族の検査同伴はもちろん、日常生活報告書作成、その他最大限の協力が必要となります。障害者本人だけでは立証作業は絶対にできません。

 軽度の記憶障害は度忘れ、言語障害も多少言葉がでないだけ、性格変化は多感な時期だから? 被害者の異変はどんどん回復するはずであるとご家族は期待しがちです。脳外傷による障害は一般的に不可逆的(回復不可能)なものです。ご家族も冷静な判断、対応が必要です。
 

ある相談者(被害者の奥さん)とのエピソード。

私   「日常生活であれっ?と思ったことを教えて下さい。」
 
奥さん「はい。主人に食事をだしたら、『いつもありがとう』と言いました。」

私 「それがどうしてですか?」

奥さん「結婚以来、初めて言われましたよ!これで主人はおかしくなったと確信しました。」

私 「なるほど」

       
 以上、高次脳機能障害マニュアルに掲載予定です。