ゲームの世界では「隠れアイテム」「隠れキャラ」などの言葉があります。これはゲームの製作者が意図的にその存在をマニュアル等に載せず、ゲームをやりこんだマニアにそれを発見させる楽しみを与えるものです。

 これがあるのです。自動車保険にも。

 いざというとき、つまり交通事故では自動車保険がもっとも頼りになる救済システムです。それは掛金を払っている契約者(加害者)はもちろん、相手(被害者)に対しても同様です。
 しかしこれから紹介する特約を知っている人はどれだけいるでしょう?私の聞き込みでは大手損保会社の数億円収保の大型プロ代理店、保険支払部門勤務30年のベテラン社員でさえこの特約の請求に遭遇したことがないそうです。この方達が勉強不足であるとは思えません。それほど珍しいケースなのでしょうか・・・。

隠れ特約① 無保険車傷害特約

 無保険車傷害保険とは(超簡単に説明します)・・・

 事故相手が自動車保険に入っていない、効かない、または保険は入っていても支払額が足りないとき、自分が契約している自動車保険から肩代わりして支払ってくれます。乗っていた車の保険が適用される方や搭乗中の方が死亡、後遺障害を負った場合に保険金をお支払いします。記名被保険者とそのご家族(別居の未婚の子を含む)についてはご契約のお車に搭乗中以外(自転車、歩行中など)の事故も補償します。加害者が負担すべき損害賠償額のうち、自賠責保険の保険金を超える部分に対して、被保険者1名につき2億円を限度に保険金をお支払いします。ただし、加害自動車に対人賠償保険が(足りない額だけど)ついている場合や他の無保険車傷害保険(特約)の適用がある場合は調整して支払います。
 

★ 現在、多くの保険会社は、人身傷害特約に加入している契約について、後遺障害のないケガの補償については人身傷害特約で対応し、後遺障害以上で無保険車傷害特約を適用する、といった区分けをしています。 
 

前置きが長くなりました。実例でお話します。   

 

実話 隠れ特約に翻弄されて

 親の自動車を勝手に運転した18歳の息子A君が歩行中の人をはねてしまいました。被害者Bさんは足を骨折、後遺障害7級となり、不自由な生活を強いられています。肝心の自動車保険ですが、この自動車には任意保険で対人賠償が無制限でついていながら、親の年齢にあわせて契約しているため「35歳未満不担保」です。つまり18歳の息子が運転した場合、保険が適用されません。 相手のC保険会社も「年齢条件が×なので・・・」対応してくれません。保険が効かないのです。そして当然この少年には貯金も財産もありません。親の親権者責任を問う歳でもありません。つまり支払い能力がないのです。
 相手の自賠責保険だけが残りました。しかしこの請求も誰かがやってくれるわけでもなく、一向に手続きが進みません。結果的に相手保険の代理店、相手が雇った弁護士が手続きを手伝ってくれました。そして最低限、スズメの涙ほどの保険金が支払われた後は梨のつぶて、相手からの連絡が途絶えました。それから3年、時効が迫るころに私に相談が舞い込んできました…
 
私:「相手が無保険ならご自身がご加入の自動車任意保険から無保険車傷害特約を適用することができますよ」
 
Bさん:「えぇっ?本当ですか? そんなこと弁護士相談でも聞きませんでしたよ」
 
私:「弁護士とはいえそれを説明できる先生は稀です。さらに保険会社は率先して教えてくれません」
 
Bさん:「しかし事故後、自分の保険会社ア〇サに何か救済方法はないか聞いたら、『人身傷害特約に加入していないので、支払える保険はありません』と言われました」
 
私: 内心(またか・・・) 「そこまで言って無保険傷害特約の存在を教えてくれないのは悪質ですね。私が電話しましょう」
 

私: 「ア〇サさんですか?・・・・Bさんの件ですが無保険車傷害特約払って下さいな」
 
ア〇サ: 「人身傷害特約に入っていませんので・・・」
 
私: 「あのぅ、日本語わかります?『無保険車傷害特約』の請求をしたいんですが」

ア〇サ: 「少し調べる時間を下さい。折り返しお電話します」 ・・・翌日別の担当に代わり電話がきました。

ア〇サ: 「私が担当Dと申します。無保険車傷害特約は適用できます。しかし残念ながら保険金請求の時効2年を超過しておりまして・・まことに残念ながら・・・」

私: 内心(またそうきたか・・) 「しかし2年前、Bさんは『人身傷害特約』の請求相談で電話をしています。その時に『無保険車傷害特約』の案内はできましたよね?意図的に特約を隠ぺいしたと言われても仕方ないですね。」

ア〇サ: 「いえ、当時の対応した者が勉強不足で・・・ごにょごにょ」 そしてさらに担当が替わる。

私: 「もうあなたが最後ですよ! つまり保険業法の重大な説明義務違反ですな。これ以上は金融庁に相談しますわ」

ア〇サ: 「いえっ(焦)、少しお待ちを」  ・・それから1時間・・ 「被害者救済のため特別に適用します」

私: 内心(あ~面倒くさっ、だからア〇サか) 「わかりました。請求書を送って下さい。それと『特別に』じゃなくて『当然に』じゃないですか?今後の対応しっかり頼みますよ」
 

 さてさて、このように無保険車傷害特約の支払は非常に珍しく、保険会社の社員、代理店もよくわかっていません。単なる勉強不足なのか、それとも意図的に『隠れ特約』としているのか・・・  そしてこれでBさんは救われた!とはいかず、さらに茨の道が待っていました。  つづく