数えてみると、この10年、およそ970人の交通事故被害者さんと面談による相談を受けてまいりました。メールや電話ではなく、実際にお会いすると、見えてくるものが多く、より有意義な回答になります。その経験から気付いたことをお話しします。とくに、自らの症状の訴えについて。

 まず、重傷者は自らの運命に達観していると言うか、わずかでも症状が改善したことを誇らしげに語ります。肩関節の脱臼骨折後、上腕神経麻痺の被害者さん、「事故後、まったく動かなかった腕がここまで動きました!」と。それは肩関節の角度で言うとわずか15度ほどでした。それでも日々のリハビリの成果です。

 また、脊髄損傷で四肢の完全麻痺の被害者さんの例、首から下がピクリとも動かず、全介助の車イス生活です。それでも、症状固定を延ばして1年間懸命にリハビリに取り組みました。その成果、肘関節が5cmほど動くようになりました。本人・ご家族にとって「たった5cm」ではなく、「5cmも!」なのです。それだけでも奇跡、涙を流して喜んでいます。このように、重傷者ほど、交通事故被害による苛酷な運命を前向きに捉える傾向があります。

 それに反して、捻挫・打撲の被害者さんの訴えは、途轍もなく深刻に聞こえます。もちろん、交通事故被害・受傷から日常が壊されるのですから、気持ちは分かります。しかし、会社を何ヶ月も休み、ほんとんど廃人のような訴えの方は、口にすることは常にお先真っ暗闇、重傷者と間逆の傾向なのです。

 しかしながら、その治療費や休業損害を支払う加害者側保険会社の厳しい目も意識する必要があります。むち打ちの診断名、頚椎捻挫で「あっちが痛いこっちも痛い、肩が挙がらない、腕・指がしびれる、頭痛・めまいがする、不眠、生理不順、尿が出ずらい、ノイローゼ気味・・・」、それはそれは大層な訴えです。延々と症状を並べても、その診断名に比べて大げさに思われます。

 確かに頚部神経症状から、広範な神経症状に悩まされる被害者さんもおります。ただし、「痛い痛い」と言いながらも、復職せざるをえません。打撲・捻挫の診断名で長期休暇など、普通は会社が許さないでしょう。保険会社の支払も3ヶ月までなら寛容ですが、とっとと治療費を打ち切りたいのです。本人の苦痛など他所に、周囲の目は厳しいものです。

 もし、訴える症状がそれ程深刻なら、仕事はもちろん、正常な日常生活など確かに無理です。しかし、その被害者さんの日常生活をみるに、飲み会に行き、長時間ドライブもしています、旅行にも行きます、ゴルフもします、たまにパチンコもやっているようです。やはり、訴える症状は大げさと捉えられてしまうことでしょう。

 だいたい、人生において打撲・捻挫程度の診断名で、毎日、半年間も通院したことなどあるのでしょうか。胃がんで胃を全摘出した方でも、3~6ヶ月程度で職場復帰することがあります。同程度のケガ、例えば自分で転んでケガをした場合はそんなに通うはずありません。保険会社は「被害者意識」による賠償病と揶揄しています。

 被害者さんは、このような保険会社の認識を十分に理解すべきです。周囲が想定する以上に神経症状がひどい一部のむち打ち患者さんはやはり例外的、ほんの一部でしかありません。医師もそれなりの注意を払い、MRI検査や脊椎外来への紹介などに進めます。保険会社の医療調査も、その経過をみて、治療費の長期化を止む無しと判断することになります。

 しかし、大多数のむち打ち被害者さんは、他覚的所見が乏しく、医学的にも説明がつかないほどの重い症状を訴えます。だからこそ、自らの訴えが「医学的に、一般的に、非常識なのか?」を客観的にみるべきと思います。その上で、検査を重ねる、専門医の受診をする、などの立証作業に向き合うべきです。交通事故被害者とは、とくに打撲捻挫の診断名の方は、保険会社との賠償交渉上、大変に不利な立場であること自覚するべきです。

 孫子曰く、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」の通り、保険会社の思惑を知り、症状の信憑性が薄くみられる自らの立場を知り、賠償交渉と言う戦いの準備をすべきと思います。ここに思い至った被害者さんだけが、実利ある解決、勝利をつかむと思います。保険会社を恨み、担当者を怒鳴りつけ、医師にも食ってかかり、弁護士に自らの悲劇を訴えて回る暇などないのです。
 
 

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