前置きが長くなりましたが、いよいよ本題に。
 
<考察>

① 任意保険会社が治療費を払ってくれるはずでは?

 そもそも、相手に任意保険会社があるのであれば、任意社一括払いで治療費は確保されるはずです。問題の本質は、保険会社が難色を示すような施術料の請求内容なのです。

 また、自賠責以上の慰謝料が確保できるのなら、行政書士の介入の効果はないはずです。相手に任意保険がない、被害者に過失が大きく相手任意社の対応がない、この場合は理解できますが、任意社の一括払いがあるにも関わらず、このような事務で報酬を得ることは不自然に写るのです。
 
② 後遺障害が見込まれる患者はいないのでしょうか?

 そして、最も危惧することは、後遺障害が見込まれる患者の囲い込みです。患者の中には14級9号が認定されるべき患者も混ざっているかもしれません。病院と連携、併用治療を推進している整骨院なら、後遺障害認定の可能性を残しますが、病院への通院実績が減ることは認定上マイナス要素です。だからと言ってα先生がその患者に対してΩ整骨院への通院をやめさせることができますか?そんなことをしたら、せっかくの連携関係は「パリン!」です。
 
③ 行政書士介入のメリットは何?

 したがって、Ω整骨院との連携は「後遺障害のない軽傷被害者が中心」となるはずです。それでも、どうもしっくりこない。なぜなら、3か月の通院で完治する軽傷患者の場合、慰謝料は任意保険会社基準で378000円(3か月)、対して裁判(赤い本)基準で530000円(同)です。差額は152000円です。実際は、弁護士を入れない芭青、53万円×80%=424000円で妥結することも多いはずです。あまりも僅差、報酬10万円で費用倒れです。そもそも、行政書士は賠償交渉ができませんので、増額させることはできません。こっそり書面による賠償交渉をしているのでしょうか?
 
 軽傷者は相手保険会社との直接交渉でもそれなりの解決となります。弁護士に報酬を払ってメリットがでるような多額の賠償金ではないからです。軽傷案件は、そのまま保険会社との相対交渉で解決することが自然なのです。何故に行政書士が関わってくるのか? その介入に何か別の理由があるのではと勘ぐってしまいます。仮に、数万円程度の手間賃で、被害者請求をしたとします。相手が無保険車の場合、まさに被害者救済に叶います。しかし、保険会社に施術料を渋られる整骨院を助ける事が主目的ならば、不健全極まりない仕事と言われそうです。
 
④ 被害者の賠償金を食ってしまわないか?/strong>

 また、自賠責保険の傷害分の限度額は120万円ですから、整骨院へ施術料金が70万円を超えたら、残り50万円しか休業損害や慰謝料の余地が残りません。自賠責からの休業損害や慰謝料が少ないので、自賠責保険の請求後に追加的に任意保険会社に賠償請求するとします。そこで相手の任意保険会社に交渉を戻しても、おいそれと慰謝料の増額に応じないと思います。計算によっては、整骨院が施術料を確保した為に120万円の枠を食ってしまい、被害者の賠償金が十分に確保できない危険をはらんでいると言えるのです。
   
 私の結論
 
 このように、後遺障害が見込まれる重篤な患者をはじめ、法律家を本当に必要とする被害者を救済している業者にとって、整骨院は遠い存在、親和性は薄いはずです。5万円程度の報酬で軽傷案件をどんどん引き受けたい行政書士がいるのなら別ですが(あくまで、整骨院からマージンはもらっていないとします)・・患者より 整骨院の利益の為の仕事と言われても抗弁できないと思います。
 
 整骨院が私達に提携・連携を求める理由は「施術料の確保」が第一なのです。被害者救済より「整骨院の収益と行政書士の報酬稼ぎの利害一致」と見られてしまうでしょう。少なくとも、保険会社や自賠責保険・調査事務所はそうにらんでいるはずです。
 
 4回にわたったこのシリーズ、結論が前回までの内容「柔道整復師の施術料急増」の背景に帰結します。そもそも施術料の請求に問題があるのではないでしょうか。なぜなら、保険会社から信頼されているクリーンな整骨院であれば、普通に施術料の一括払い(保険会社からの直接払い)を受けています。ここに、行政書士介在の必要はありません。また、誠実な柔整師は病院での治療が必要と判断すれば、患者を即座に病院へ送り出します。つまり、整骨院においてクリーンなやり取りがなされれば、患者、保険会社、整骨院間において治療費でもめることは少なく、法律家の出る幕は極めて限定的なはずです。
  

 この連携には、どうしても違和感が残ります。根底に「健全な被害者救済の精神」がない仕事は続かないと思います。今後も詳しい事情を柔整師の先生、整骨院と提携している行政書士から継続的に拝聴していきたいと思います。後ろ暗いことない、被害者救済を第一とした健全な提携関係であることを願うばかりです。