健保の使用判断は、健康保険法で被保険者(患者)の意思であり、ひと昔前によく病院窓口で言われた、「交通事故では健保は使えません」などの法律は存在しません。むしろ、この病院の姿勢は、健康保険法違反に類すると思います。    自由診療と健保診療については、かつての記事を ⇒ 自由診療について 3    近年は、交通事故の健保治療について、直ちに拒絶する向きは減りました。しかし今度は、掲題のように、自賠責保険の書類を拒否することが普通になりました。この背景事情を病院事務の方々に聞いたところ、近年の医師の集まりで正式に申し合わせがなされたようです。まじめな医療事務員さんは、まるで法律改正でもあったように、健保治療は交通事故と関係ない、だから、自賠責保険の診断書・レセプトを書かないと徹底しています。    この動きには、損保側も大変困っているようです。なにせ、治療費の圧縮には健保・労災の使用が欠かせません。健保は医療点数1点=10円と決められており、自由診療の20~円に比べ、およそ半額なのです。    治療費の圧縮はしょせん損保会社の支払い事情ですが、過失案件で被害者さんにも責任がある場合は、影響は避けられません。例えば、20:80の事故の場合、賠償金総額から自身の過失分20%が差し引かれます。すると、治療費を半額に収めれば、最終的に手にする慰謝料等の賠償金が増えます。この計算内訳は別の機会に譲るとして、自身に過失のある場合、健保・労災の使用は必須なのです。    一方、病院側の事情を代弁すると、「相手のいる加害事故での被害者は、自由診療であるべき」と考える向きは間違っていません。国の公的補償制度の性質をもった健保に、第3者による加害行為までを(国民全体に)負担させるべきとは言えません。それは確かに筋です。しかし、本音は「健保治療は治療費が半額以下で儲からない、なのに、自賠責の書類まで面倒見れるか!(怒) まぁ、自由診療で儲けさせてくれたら、自賠の診断書を書いてやらんでもないけどね」と言ったら、ゲスの勘繰りになりますでしょうか。病院にとって交通事故はドル箱、なるべく自由診療に誘導したい気持ちはわかります。

 さて、この病院側の「交通事故治療では自由診療以外は自賠責の書類を記載しないことになっている。」は、健康保険法や自賠法に関係のない、病院側の一方的なルールです。そこで、「病院側に違法あり」と、断罪できる法的根拠を考えてみました。健康保険法1条他を原則に考えれば、健保使用は患者の意思次第であり、「健保を使うなら自賠責の書類は書かない」は、国家の制度である健保の使用に、病院側が勝手に条件をつけたことになります。これは、不当な使用制限です。

 また、医師法から見ると、

第19条 2  診察若しくは検案をし、又は出産に立ち会つた医師は、診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には、正当の事由がなければ、これを拒んではならない。    「健保を使ったから自賠責の診断書は書かない」が、正当な理由になるのか否か、これも争点になります。今度、この問題で対立する案件がきたら、弁護士さんに病院を訴えてもらいたいです。その判例で決着をつけることになります。最近の自賠責、健保の判例から推察するに、裁判官が被害者救済の見地に立てば、判断は容易と思います。    まぁ、白黒つけることは別として、病院側が柔軟に対応してさえくれれば良いのです。例えば、相手が無保険(自賠責のみ)で、賠償金の確保が難しく、自賠責しか頼れない場合は、「健保と自賠責の併用は避けられないので、その場合は両方のレセプトを記載できる」。これを例外規定として、申し合わせに加えてもらえないでしょうか。過失案件で被害者自身に過失が生じる場合も、少なくとも自身の過失分には健保を使う権利があります。これも同じく例外の扱いに。実は、事情を話せばわかってくれる病院も多いのです。

 被害者さん達の状況は複雑です。そして、何といっても困っているのです。ありとあらゆる保険を使用・併用をしなければならない窮状を、治療側に是非ともご理解頂きたいのです。病院に限らず関係者すべて、優しさ・寛容を前提にすれば、簡単なことではありませんか。  

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