お盆です。ご先祖様の魂が一時帰宅します。日本人の死生観をもっとも感じるこの季節、交通事故で亡くなったアニメキャラを通して、交通事故死亡者数の推移、自賠責保険の死亡限度額・増額の歴史を振り返ってみましょう。

 まずはおなじみのグラフから。このように1970年のピーク、1万6765人から減少を続け、90年代にやや盛り返しましたが再び減少を続け、現在は5千人を切るまでになりました。このような推移はやはり世相に反映するもので、70年代のドラマはやたらと交通事故のエピソードが多く、交通事故が身近なリスクと認識されていました。当然ながら子供が観るマンガやアニメにも交通事故の影響があるはずです。マンガやアニメをほとんど観ない私ですが、夏休みなので頑張って調べてみました。

タイガーマスク(伊達直人)

 無敵のタイガーも交通戦争の犠牲に。1971年の事故です。この年、16278人が亡くなっています。
 アニメ版の最終回ではなく、マンガ版の最終回で子供をかばい自動車にはねられます。こと切れる間際、伊達直人は最後の力を振り絞りマスクを川へ投げ捨て、自らの正体を守り抜きます。

 信じられないかもしれませんが、当時の自賠責保険の死亡限度金額はたったの500万円!出身の孤児院 ちびっこハウスに寄付を望むところですが、身寄りのない孤児であった伊達 直人への死亡保険金は国庫に入ると予想します。”虎は死して自賠を残す” せめてランドセル代にならないでしょうか? 

 

如月 ハニー 「キューティーハニー」

 近年までリメイクが続く鉄板コンテンツ。如月博士が交通事故で亡くなった娘をアンドロイドとして再生した設定となっています。このパターンは王道で、鉄腕アトムも天馬博士が交通事故で亡くなった息子をモデルに作りました。

 人間としてのハニーが死亡した年は定かではありませんが、マンガ連載とアニメ放送が1973年でその年の死亡者数は14574人。自賠責保険の死亡限度額は同年12月に1000万円に、大幅な増額となりました。それまでの死亡保険金は物価と比較しても安すぎですね。もっともハニーに内蔵された「空中元素固定装置」さえあればお金はいくらでも作れますが。(でも偽札か)

 

上杉 和也 「タッチ」

 交通事故死と言えばこの人、主人公 上杉達也の双子の兄です。ちなみに私の母も一卵性の双子です。
 さてタイガーマスク同様、子供をかばって自動車にはねられます。事故状況から自動車の運転者の過失は少ないと思われ、おそらく上杉家への賠償金は厳しい過失減額がされない自賠責保険の限度で支払われたはずです。

 1981年当時の死亡金額は2000万円(20~50%減額の可能性あり)に上がりました。仮に任意保険の積算ですと、かっちゃんは勉強ができたようなので逸失利益は「大学卒の賃金センサス」で計算してもらいます。将来有望なピッチャーではありましたが、甲子園に行っていない状態での死亡なので、将来プロ野球選手になる蓋然性は低く、逸失利益はそれ程伸びないと思います。やはり、自賠の限度額で解決でしょうか。 
  
 この年の死亡者数は8719人にまで減少したのですが・・。

 

ミンキーモモ 「魔法のプリンセス ミンキーモモ」

 ヒロインの死。しかもあっけない交通事故死。1975年「フランダースの犬」ネロとパトラッシュの行き倒れ(死因はおそらく低体温症)に続き、全国の子供たちに深刻なトラウマをもたらしました。しかし、最終回で人間界の両親のもとに生まれ変わる・・というオチでしたのでフォローになったのかな。

 魔法の世界と現実社会の交通事故、そのコントラストがより交通事故の悲惨さを浮き彫りにします。1983年の事故、死亡者数は9520人。自賠責保険の限度額は2500万円に。 

 

浦飯 幽助 『幽☆遊☆白書』

  しょっぱなに交通事故で死亡。しかし、ここから霊界探偵としての活躍がスタートするわけで、死亡の悲惨さはありません。子供にショックを与えるミンキーモモは問題ですが、軽い死、それもまた困りものです。

 事故状況はもはやお決まりの「子供をかばって」です。主人公がうっかり交通事故に遭うのはかっこ悪いのでしょう。交通事故外傷の60%を占めるむち打ちも、アニメ界ではほぼ皆無です。後遺障害が認定されたアニメキャラも聞いたことがありません。

 1990年の事故。死亡者数は少し増えて11227人。  

 

槇村 香 「シティーハンター」

  主人公 冴羽 獠のパートナーで、続編「エンジェルハート」でその交通事故死が語られるという珍しい経緯。香さんも子供をかばって自動車にはねられました。もうこれはお約束なので触れません。問題なのは冴羽からプロポーズを受けた直後の事故ということです。冴羽は職業柄(殺し屋)、本名も戸籍もありません。したがって法定婚は成立せず、当然ながら婚姻届も提出していないでしょう。つまり、香さんの保険金は自動的には冴羽に入りません。しかし、香さんには身寄りがいません(6親等まで調べたわけではありませんが、物語ではすでに死んだ兄のみ)ので、事実婚状態が長ければ、内縁関係の特別縁故者として、冴羽に保険金や賠償金を含めた相続権を主張できる可能性があったのです・・・。ちなみに死亡後、心臓移植のドナー登録がされていたようで、続編のヒロイン香瑩(シャンイン)に心臓が移植されており、まるで憑依したかのようなシーンも。

 2000年の事故、死亡者数は9066人でふたたび1万人を割るようになりました。そして自賠はようやく現在の3000万円

 
 このように各年代を代表する死亡例を羅列しましたが、死亡者の多かった60~70年代が意外と少ないことに気付きました。この年代の特徴として主人公が天涯孤独である境遇を表現するために、両親が交通事故で亡くなっている設定が多いようです。例として「ドカベン」の山田 太郎の両親はバスの転落事故で亡くなっています。
 さらに交通事故は「突然、一瞬で、まとめて」登場人物を物語から退場させることができるので、話の展開上、都合良く使われます。特に80年代以降の少年ジャンプ系が多いのは連載打切りや物語の新展開に便利だからと思います。
 

 やはり検証してみると子供向けのマンガ、アニメにも交通事故の暗い影がありました。しかし現在、死亡事故を減らす行政の努力や医療技術の進歩、そして全体の交通安全意識の向上から死亡者数は減少を続けています。そういえばドラマでも交通事故で亡くなる場面が減ったように思います。それは1991年「101回目のプロポーズ」で、武田 鉄矢さんが・・「僕は死にましぇ~ん!」と叫んだ時が転換点ではないかと分析します。 ♪SAY YES~

  
 車道に飛び出しトラックの前に。あわや被害者の重過失となる事故。運転手はいい迷惑です。