歌手やアイドル、俳優など芸能人を目指す人は多いものです。
  
 かつて、芸能プロに所属の女性ヴォーカル、と言ってもテレビに出るような活動までは難しく、今でいうところの地下アイドル並みですが本格的なR&Bシンガーさんが、私のようなギャラがあるかないか定かではないアマバンドに遊びで1年ほど加入してくれたことがありました。しかし、実力はプロ並みの歌唱力でした。その娘の仕事はたまにインディーズCDを発売と、イベントなどで歌っていたようです。そのお仕事から聞いた話を一つ暴露、いえ、紹介します。
 
 彼女が所属する渋谷にある小さい事務所では、定期的にヴォーカルコンテストを実施していました。全国から歌手希望の若人を募って、東京で開催します。優勝・入賞者にはプロ契約の道が開けると言う触れ込みです。審査員などに業界人も参加しています。形だけはそれなりの体裁をとっています。

 親子で全国各地から夢を持って上京、歌手志望の人達が競い合います。そして、優勝は当然、我がバンドのVo.さんの彼女です。出来レースというより、それなりの実力者を優勝させないと恰好がつかないのでしょう。そして、参加者の全員ではないにしろ、何人かは入賞、あるいは、応募テープから「事務所の目に留まった」として、事務所とのプロ契約を提案されます。プロへの第一歩を踏み出した本人達は大喜びです。地方から上京暮らしとなります。

 さて、事務所に所属するのであれば、安いなりにお給料をもらわないと生活できません。ところがなぜか無報酬です、プロなのに。そして、ヴォイストレーニング、ダンスなどのレッスンがあり、それらすべて自腹でレッスン料を支払います。また、レコーディングと称して適当な曲をあてがわれて、嬉々としてCD制作しますが、なぜか、その経費も請求されます。大手事務所のように何億円もかけてプロモーションなどしないですから、まったく売れはしません。もう、おわかりですね、彼女たちは単なる事務所のお客さんなのです。

 普通に考えれば、「おかしい?」と思いますが、本人達はプロへの下積みと納得してしまうのです。事務所の社長に疑問を言っても、「アユだってデビュー前は頑張っていたよ。成功目指して一緒に頑張ろう!」と騙され、いえ、励まされます。
 
 そして何年か・・本人の目が覚めるまで、お金を支払い続けます。国元のご家族が心配しても、夢を目指す者に聞く耳はありません。しまいには借金となり、キャバクラはじめ水商売のバイトを紹介されます。「あの歌手も売れるまではキャバやっていたんだよ」と・・。ちなみに、社長は裏でちゃっかり紹介料もせしめます。本人が気づく、いえ、夢を諦めるまでこの搾取は続きます。

 そもそも、専属契約とうたっていますが、雇用契約ではなく、”事務所が活動支援する”だけの契約です。私から見れば、事務所とお客さんの関係です。もし、本当に才能と実力があれば(何万人に一人はいますので)、大手事務所へとっとと移籍しています。
 
 「こんなクソ事務所の片棒を担いでいて、良心の呵責はないの?」と叱責したいところです。「自分と同じ夢を持っている人達をだますなんて・・」多少は気に病んでいたVo.の彼女は、その後事務所を辞めて故郷へ戻りました。
 
 渋谷界隈には、ちゃんと活動しているのか分からない芸能事務所が百あると言われています。それぞれ、タレントの養成や派遣をしているはずの事務所ですが、上記のような詐欺まがいの仕事が主ではないかと思います。詐欺には様々な種類がありますが、夢を食い物にする方式は、詐欺を構成しづらいものです。「芸能活動の支援をします」との契約をしっかり結んでいますし、結局売れなかったことが、騙しか本人の実力か判別しづらく、何より、本人の”騙されているなどと容易に認めたくない”心理に根差しているからと思います。
  
 東京は怖いところです。ちなみに先の事務所社長も、ミュージシャンになる夢を持って上京した地方出身者です。ミイラ取りがミイラになるのか、夢破れて、今度は他人の夢を食い物にする・・ゾンビの連鎖現象のようです。