自賠責の認定が労災の認定を上回るケースも、何度も経験しています。ある弁護士は「労災の方が自賠責より甘い」と言っておりましたが、そうとも言い切れないと思います。「障害の種類や内容によって、双方の認定に違いが生じる」との見解が正しいと思います。 それでは、画像所見を重視する自賠責と、顧問医の診察により実状も加味する労災・・・労災が一見、甘いように見えますが、逆に自賠責が優位な認定となる象徴的なケースを挙げましょう。 それは、高次脳機能障害です。 双方、認定基準がほぼ同じであるところ、労災も自賠責も同じ等級認定をまずは期待します。しかし、他の障害に比べて高次脳機能障害の判定は難しいと言えます。脳の損傷により、記憶や認知、注意機能、遂行能力の低下、言語機能、性格変化、感情失禁、脱抑制、嗜好の変化のような脳機能の低下について、その程度を誰がみてもわかる1~2級(ほぼ寝たきり、介護状態)を除き、3、5、7、9等級の4段階で検討しなければなりません。
さらに、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、体の麻痺など5感まで、障害が及ぶこともあります。高次脳機能障害の患者さんは、脳外科のみならず、脳神経内科、リハビリ科、整形外科、耳鼻科、眼科、様々な科を受診・治療・検査となるのです。したがって、高次脳機能障害のご依頼では、複数の病院に同行して、各科の検査と評価をせっせと集めます。さらに、ご家族でしかわからない、事故前後の性格や嗜好の変化まで、しっかり文章にしなければなりません。これらを丁寧に集積してから審査に付す必要があるのです。これだけを見ても、いくつかの症状が漏れて、不完全な審査結果が戻ってくる例が絶えないと思います。 では、そのような文章審査で厳しいジャッジに晒された被害者さん、労災の審査ではいかがでしょうか? 顧問医の診察で漏れた症状を拾って頂き、障害の実状をも汲んでくれるものでしょうか・・・。
・・・いくつか裏切られています。その理由ですが、先に述べたように高次脳機能障害の症状を全方位に記録した診断書や検査結果が、揃って提出されることが難しいからと言えます。例えば、手前味噌ですが、弊所のように自賠責保険で鍛えられている事務所であれば、自賠責用に遺漏なく揃えた書類を労災にも提出します。毎度、労災職員の皆さんに重宝されています。労災治療では、検査治療の支出に制限があり、すべての障害が検査されていないことがあります。この点、自賠責保険並みに提出書類の補充が望まれます。
交通事故がらみではない、例えば、現場での転落事故などでは、自賠責並みの集積は無理です。労災だけの事故では、高次脳機能障害の全容が伝わらない懸念が尽きないのです。
また、労災の顧問医の多くは整形外科医です。必ずしも、脳神経外科の医師や高次脳機能障害の専門医が診察にあたるわけではないのです。大変に僭越な物言いになりますが、専門外の医師は高次脳機能障害を理解していないと思います。一方、自賠責には高次脳機能障害・審査会という専門部会での審査になります。脳外科医、弁護士等、外部の審査員を含めた合議制で進めます。審査の実績から、その精度は日本一と言っても過言ではありません。弊所からの申請でも、ほぼ期待通りの結果が戻ってきますので信頼があります。 ようやくとなりますが、労災の審査で等級が薄まる典型例を説明します。自賠責保険の認定で注意・遂行能力の低下、性格変化、情動障害などから5級となった被害者さんですが、その後に労災の審査で顧問医の診察を受けました。顧問医の前で、しっかり受け答えもできて、普通に歩いて話している姿から、「5級ほどの重さはないよね」と思われてしまうのです。程度によりますが、高次脳機能障害者の「病識が乏しい」ことも理由の一つです。自らの障害を自覚していないのですから、症状を顧問医に完全に説明できないのです。
この方、一見健常者と変わらなくとも、家族によると事故前後の変化が深刻で、易怒性(キレやすい)に悩まされています。ところが、医師のような他人の前になると、わりとシャンとしていて15分程度は易怒性が発揮されません。5~9級位の患者では、易怒性と言ってもこの程度であることがあります。常に激高している患者さんは3級以上と言えます。そのような、知見が担当する顧問医にあるのでしょうか? 家族から家での症状について、しっかり聴取しているのでしょうか? つまり、高次脳機能障害の臨床経験もない、専門外の医師による、たった1回の、短時間の、面談で等級が判断されてしまうのです。
高次脳機能障害の場合、家族同伴の診察を必須条件にして欲しいところです。何より、高次脳機能障害を熟知した専門医の診察としてもらわなければ、正しい判断は無理なのです。一行政書士事務所の訴えなどむなしく、労災では高次脳機能障害の知見乏しい医師による、素人判断に晒される危険が続くと思います。
それでは、「自賠責>労災」等級認定の実例を挙げます。両者に申請をかける場合は、その違いを熟知して、できれば申請をかける順番もよくよく検討してからにして頂きたいと思います。
👉 7級4号:高次脳機能障害(60代女性・神奈川県) → 労災は9級に
担当弁護士と裁判で等級の維持を検討しましたが、裁判上でも労災9級に傾きかねない症状でした。また、本人の過失が大きく・・。したがって、自賠責7級をもって人身傷害での妥協解決としました。 👉 5級2号:高次脳機能障害(40代男性・神奈川県) → 労災は9級に
この件は、自賠責の申請から労災の申請まで、その数か月の期間に何故か回復が進んだ点から、後の労災9級が実情に近いものでした。結果的に自賠責のジャッジが優位であった件です。労災に審査請求も覆らず、苦渋の結果となりました。 高次脳機能障害について、弊所では自賠責と労災をほぼ同じ等級にしていますが、上記のような逆転の結果も数件生じています。 今後、両者への申請を検討中の被害者さん、およびご家族は、申請の順番を慎重に検討して頂きたいと思います。多くのケースで保険金や賠償金は自賠責保険が労災を上回ります。やはり、「審査の本丸は自賠責保険」と言っても良いでしょう。
最近の例でも、ある弁護士先生が「労災を先に申請しましょう」としていた件がありました。おそらく、然したる理由もなく、先に労災給付金=既払い金をとってから・・程度の考えなのでしょう。実に危なっかしい誘導です。





