タイトルは会社側の視点としておりますが、通常の業務では被災者側からの相談が多いものです。それも、労災と交通事故が被るケースが一番です。会社側の「労災を使うと労災の掛金が上がる」呪縛について、もう少し掘り下げます。
 
(4)通勤災害は非業務災害率

 通勤災害は、被害者(社員)か加害者の過失によるものであって、ほとんどが会社に責任がないものです。したがって、通期災害は、非業務災害率(過去3年の通勤災害率および二次健康診断給付に要した費用その他を考慮して定める率)になります。非業務災害率は、平成21年4月1日に、従来の1000分の0.8から1000分の0.6に改定されています。

 非業務災害率は、前回記事の(2)の計算式のように・・・
 
災害度係数とは{社員数 ×(業種ごとの労災保険料率 - 非業務災害率)}で算出します。非業務災害率は現在0.06%となっております。
 
(計算例)

 従業員数80名の飲食業の場合、上記の計算式にあてはめると・・・ 80名 ×(0.3%-0.06%)= 0.192 ≦ 0.4

 ・・・災害度係数は0.4未満となり、この飲食業は基準を満たさないため、メリット制の対象外です。労災保険料が高くなることはありません。 

 つまり、労災保険料率が0.4%を超えない会社については、建設業(掛金100万超)を除き、100人未満であれば労災保険料率が高くなることはありません。20人未満の会社は端から関係ありません。
 
 上記の通り、非業務災害率の数字は小さく、メリット制(掛金の増減)が適用される可能性低いものです。
 
(5)通期災害での労災支給額の実際

 通勤災害で労災を支給したとして、加害者がいれば、その自賠責保険や任意保険に求償しますので、ある程度の回収が期待できます。回収金があれば、当然に労災保険としての支出額は少なくなります。

 とくに、自賠責保険は被災者の過失が80%を超えるほど大きくない限り、被災者へ100%支払われるものです。労災の求償は、自賠責保険からで十分間に合いそうです。実際、後遺障害保険金への求償は、その逸失利益分からですが、年収が400万円を超えない被災者さんは、労災支給額のほぼ全額が回収されているようです。回収されたら、労災支給額はその分少なくなります。

※ 業務災害でも、第3者となる加害者の存在があり、(事故に主たる責任がある)加害者から追って賠償金が支払われた場合、その分について労災から求償されることになります。ただし、業務災害の多くは会社側に責任が問われるケースですから、第3者がいないことが多くなります。第3者の多くは、移動中や配達中の交通事故における加害者です。交通事故ならば、通勤災害に同じく、相手の自賠責・任意保険に求償の余地が生じます。
  
 結論から言うと、メリット制の適用会社で、その掛金に影響する場合あっても、通勤災害での労災使用に関しては、それほどの心配はいらないことになります。問題は、その試算を会社側や顧問の社労士に依頼したいところですが、社長も社労士も面倒がることです。真面目な社労士先生は、試算して的確なアドバイスをしますが、それより会社側の業務災害・勤災害問わず”労災使用を抑制する”感覚が根底にあります。言わば、会社と社労士間の「労災はなるべく使わせない」体質でしょうか。
 
 つづく