自賠責の後遺障害審査で非該当、もしくは想定より低い等級しか認定されなかった・・納得のいかない被害者さんは、異議申し立て(再請求)を検討します。相談の一定数は異議申し立てとなります。
 
 さて、異議申し立てに関するノウハウですが、ネット情報は玉石混合ながら、多くに一致しているポイントはこれです。
 

 新しい証拠を提出すること

 
 新しい医証が提出されて初めて、もう1度、審査・調査する必要が生じるのです。前回、提出した内容での審査は終わっているのです。前回と同じ書類を再提出して、「もう1度よく見てくれ!」「前回の判断は間違っている!」とまくし立てても、自賠責側は基本的に聞く耳を持っていないのです。確かに、微妙な判断で左右される障害の場合、再検証による認定内容の変更はあります。しかし、それはレアケースと心得えるべきです。

 認定結果に諦めがつかず、毎年のように異議申し立てをしている人もいるようです。まるで、ライフワークです。何度、同じ書面で勝負しても無駄でしょう。また、新たな診断書、新たな検査結果を追加したとしても、既提出の診断内容を覆すほどのものでなければ、これも同じことです。総じて、”初回申請で勝負を決められなかった不利”を噛み締めることになります。

 相談会では、他事務所に再申請を依頼したものの失敗したケースから、その異議申立書を目にすることがあります。よく出来ているものもありますが、一方、費用をとっていながら疑問を持たざるをえない書面も目にします。失敗例から学ぶ、ではありませんが、残念な例を挙げたいと思います。
 
○ 誰でも「すごく痛い」と言います

 被害者が自らの症状を切々と語ります。いかに、後遺症で苦しんでいるか・・。審査側も人の子、確かに感じ入ることはあるかもしれません。しかし、自賠法に則り、他覚的所見(医師の診断)から導き出される症状・数値が基準を満たさなければ、無駄となります。

 多くの被害者は、感情をぶつけるだけの異議申し立てを、永劫に繰り返すことになります。
○ 弁護士は医師ではありません

 ある弁護士の書面ですが、医学書から学説を引用し、自賠責判断が間違っている事をつらつら書きつづっています。緻密な分析はまるで研究医、文章は裁判の準備書面のように構成されています。さすが大したものだと感心しますが、これではダメです。自賠責側も顧問医がおります。自賠責でも2度目の申請ともなれば、顧問医が分析・判断することになります。それが、弁護士の分析と一致していれば可能性は開けますが、それだけでは足りません。

 そもそも、弁護士は医師ではありません。自賠責の顧問医は、被害者を実際に診ている主治医の新しい意見、専門医の診断書、検査結果を付せば、真剣に検証するでしょう。それらを欠いた、医師ではない素人の分析など、いくら論理的に文章を積み上げても、「新たな証拠」にはならないのです。

 論理的に積み上げた分析は、ジャッジする第3者(=裁判官)が存在する訴訟での手法です。自賠責の審査はあくまで片面的審査です。自賠責側と意を同じくしなければ、等級は覆りません。自賠責を論破してドヤ顔?実に弁護士らしい陥穽に落ちてしまうのです。
 
○ 紙面を稼げばいいの?

 これは、行政書士にみられる傾向です。弁護士と違って個性的な論理展開もあり、感心することもあります。しかし、弁護士を真似た文調ながら、実に無駄な文章で紙面が増えていきます。あたかも、たくさん書けば勝ち?との勢いです。内心、等級変更は無理かも・・つまり、成功報酬を得られないかもしれないので、手間(作成した文章の枚数)をかけて費用を吊り上げているのでしょうか。

 とくに面白かった例は・・・まず、代書人たる行政書士の自己紹介に始まって、自らの蔵書(医学関係の本)の一覧が続きます。長年、交通事故業務に取り組んでいるベテランであること、勉強熱心であることを前提にしたいようです。ここまで数ページ、なかなか、申請者の話が出てきません。ようやく、核心に及んでも、医学書の引用が長々と続き、最後にぐずぐず被害者の窮状を述べ立てて・・結局、数十ページの厚さになります。読む側も気の毒です。

 代書人がいかに交通事故に精通しているかなど、知ったこっちゃないでしょう。また、自らが執筆した著書の一覧であればそれなりの権威を示すことになりますが(これも、無意味ですが)、持っている本など自慢してどうするのでしょうか?きっと、自賠責は笑っています。
 
 異議申し立てとは、前認定の理由に対し、的確な反論、あるいは新たな論点を示し、その根拠たる新しい医証を添付する作業です。”ただ、それだけの作業”、とも言えます。
 
 秋葉事務所では、見通しの厳しい申立はきっぱりお断りしています。その見通しとは、ズバリ、”原判断を覆すことが可能な新しい医証がゲットできるのか否か”、ここにポイントを置いています。

 中には自賠責の基準から、実状よりも気の毒な結果となってしまった被害者さんもおります。この方々は訴訟にて訴えていくしかありません。それでも、自賠責の等級認定で一定の結果を出すことは、後の賠償交渉や裁判で、最大級のアドバンテージとなります。どうしても、再請求が必要な場面もありますが、できれば、初回申請で勝負を決するべきなのです。