𦙾腓靱帯損傷(けいひじんたいそんしょう)
 
(1)病態

 前距腓靭帯よりも、上側に位置し、前方を前脛腓靱帯、後方は、後脛腓靱帯と呼び、脛骨と腓骨の下部を離れないように締結しています。

 

 脛骨と腓骨は距骨を内外側から挟み込むソケットであり、その役目を果たすため、脛腓靱帯により、脛腓間をしっかり連結しています。脛腓靱帯損傷で、脛腓間の連結が緩むと、距骨の円滑な運動が損なわれて、距骨軟骨面である滑車が、脛骨や腓骨の関節面と衝突、関節軟骨の骨折や変形を生ずる原因となるのです。転落で着地するときに、足首を捻ると、その衝撃で距骨が脛骨と腓骨の間に潜り込み、脛骨と腓骨間が拡がり、この2つの骨を締結している前脛腓靭帯が損傷するのです。
 
(2)症状

 症状は、足首前方の痛みと腫れですが、引き延ばされた、もしくは部分断裂では、大きな腫れや、強い痛みはありません。しかし、前脛腓靭帯と前距腓靱帯の2つが断裂したときは、激痛で、歩けなくなります。
 
(3)治療

 前脛腓靱帯は、他の靭帯よりやや上にあり、触診でこの部分に圧痛があれば、この靭帯の損傷が疑われ、治療は、引き延ばされたものや部分断裂であれば、包帯やテーピングなどでしっかりと固定し、靭帯がくっつくのを待つことになります。

 重症の断裂では、腫脹をとるためにスポンジ圧迫のテーピングを5日前後行い、以後は、原則としてギプス包帯固定が行われています。固定をしっかり行わないと靭帯が緩んだまま癒着し、関節が不安定になります。このグレードであれば、4週間前後で痛みはなくなり、6週目からは運動を再開することができます。

 しかし、前距腓靱帯と前脛腓靱帯が断裂しているときは、難治性であり、アンカーボルトで固定する手術が選択されます。足首の底・背屈運動では、脛腓靭帯結合部は、1.5mm離開し、前脛腓靱帯にストレスがかかります。ギプス包帯で固定しても、くっつくのに相当の時間がかかり、早期運動療法には馴染まないのです。そこで、靱帯再建術が選択され、時間をかけて注意深くリハビリが行われています。
 
(4)後遺障害のポイント

 歩行中や自転車、バイクの運転中の交通事故で、右足首を捻挫しました。治療先では、どんな姿勢で捻挫したのか、受傷機転が確認されます。その後、痛みのある部位を触診して、どの靱帯が、どの程度損傷しているのか、腫れも参考にしながら、丁寧にチェックされます。最後に、XP撮影で、骨折の有無が検証され、骨折がなければ、なんとなく、ホッとします。
 
 でも、これで診察が終わるのではありません。
 
 次に、靱帯損傷のレベルをエコー検査で確認することになります。部分損傷、断裂では、ギプス固定+早期運動療法が診断され、治療方針が説明されます。

 ギプス包帯で固定し、松葉杖の貸し出しで初診は終了します。完全断裂でも腫れが強いときは、入院となり、MRI検査が指示されます。患部に対しては、RICEの処置がなされます。

 MRI検査の結果で、ギプス固定+早期運動療法、あるいは靱帯再建術が選択されるのです。

 これが、あるべき整形外科の診察室風景ですが、現実は、もっと、サバサバしたものです。丁寧な、聴き取り、触診、エコー検査は行われません。念のため、XP撮影のみが指示され、骨折が認められないときは、
 
 「足首の捻挫ですから、しばらく様子を見ましょう?」
 
 「湿布を出しておきますので、当面は、安静にしてください?」
 
 「今日、歩いて帰れますか、歩けないなら、松葉杖を貸し出しましょうか?」
 
 経験則では、これが一般的な診察のパターンなのです。
 
 そして、ここから、後遺障害が、うごめき出すのです。
 
Ⅰ. 足首の捻挫では、重度になると靭帯の断裂を伴います。この治療が放置され、靭帯の機能が不十分になると、関節の安定性が損なわれます。これを足関節不安定症と言い、前回、詳細を解説しています。
 
 👉 足関節の靱帯損傷・足関節不安定症と捻挫
 
 靭帯はすでに緩んでいるか、断裂し、古傷化しており、この段階から保存的治療でギプス固定としても、あるいは手術で、靱帯を縫合、修復術を行っても、うまく機能しないことがほとんどです。そこで、足首の腱などを編み込み、移植して靭帯を作り直す術式、靱帯再建術が選択されています。このオペでは、80%以上で、足首の安定性が確保できると報告されていますが、それであっても20%では、好結果が得られておらず、さらに、再建術では、3カ月以上の入院も必要となります。外傷では、総じて同じですが、特に足首の捻挫では、初期治療が重要とされています。
 
Ⅱ. さて、後遺障害の立証です。靱帯再建術で改善が期待されるとしても、必ず成功するとは限らないのです。そして、受傷から6カ月以上を経過しての再建術となれば、損保は、治療費の負担に否定的であり、さらに、ここから4カ月以上の休業となれば、勤務先からの解雇も予想されます。

 これだけの要件が揃えば、手術は後回しとして、症状固定で後遺障害を優先させることになります。これしか、選択肢が残されていないのです。

 靱帯損傷は、MRIで、それによる不安定性は、ストレスXP撮影で立証します。足首の機能障害は、背屈、底屈の可動域制限が対象ですが、靱帯断裂では、等級の認定要件に達する運動制限を残すことは少ないのです。となると、痛みの神経症状で12級13号を目指すことになりますが、それでも、ストレスXP撮影で不安定性を立証し、足関節の動揺性=機能障害としての認定、12級7号の認定を諦めてはなりません。神経症状であれば、労働能力喪失期間は裁判でも、15年前後です。ところが機能障害であれば、67歳のフル期間を請求することができるからです。
 
Ⅲ. 等級認定で損害賠償を実現してから、オペを検討することになります。長期の有給休暇が許されるときは、夏休み等を利用して入院、腱移植術を受けることになります。手術を受けないときは、リハビリで関節周囲を強化、テーピング、サポーターの装用で対処します。
 
Ⅳ. 軽度の靭帯損傷・・・手術で動揺性は改善されたが痛み・不具合が残った場合。画像上、不明瞭で手術を回避も、痛みが続いている場合。これらは、おなじみの14級9号だけでも確保します。12級に比べれば保険金・賠償金は大幅に下がりますが、足首がグラグラで大金をもらうより、ずっとましだと思います。
 
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