連日、ウクライナ情勢がニュースされています。恐らく当事国を含め、世界中の99%の人が戦争反対で、武力紛争の終結を願っていると思います。ただし、1%の人が「やっちまえ!」と思っているとしたら・・その1%の中に、決定権を持つ権力者がいるから戦争は無くならないのかもしれません。一般市民にとって戦争は最悪の迷惑と思います。
 
 さて、世界十数か国を旅した経験で、最も危機を感じた国はアメリカでも中国でもなく、ロシアでした。政情が不安定、あるいは紛争地を除く平穏な情勢下でと言う条件においてです。100か国を旅しているバックパッカーの猛者に比べれば、大した経験・比較ではありませんが、東西冷戦が終結して10数年後でも、ロシアのピリピリ感は半端なかったと思います。何せ、街を普通に歩いていてもお巡りさんから職質です。単純に外国人=スパイとみなす風潮で、(旅行者に難癖付けて賄賂を取る目的ではなく)純粋にしょっ引こうとします。駅でも空港でも、すべての役人も皆強面で怖い印象でした。
 
 わずか2週間程度の滞在ながら3回の緊張、そのエピソードは以下の通りです。
 
1、ウラジオストクの食品店でお惣菜を買ったら・・
 
 旧共産圏の夜は早く、20時になると次々に店が閉まります。レストランも入れません。24時間どころか深夜まで空いている店などないのです。ギリギリ、食品店で身振り手振りでお惣菜のショーケースを指さし、サーモンのカルパッチョ?、ペリメニ(ロシアの餃子みたい)を買うことに成功しました。ただし、大きいルーブル札しかなく、店のおばちゃんは「(多分)お釣りが無い」と言いているよう。困ったおばちゃん、店の外にくずしに行ったようです。程なく戻るとお巡りがついてきて・・その風貌は筋骨隆々、まるでヒョードル(※1)、この男につかまれたら最後、逃げることは不可能だろう。体格の良さからKGB上りか元軍人、それも世界最強のスペツナズ(※2)かもしれない。店内は一変、不穏な空気に。細かいお金を持っていないだけで捕まるのか?

※1 エメリヤーエンコ・ヒョードル PRIDE、リングスでお馴染みの総合格闘家。ルーツは柔道。総合格闘技界最強との声も多い。ちなみにウクライナ出身。
 
※2 KGBとは旧ソ連の国家保安委員会で、1954年に内務省から分離、反体制派の取り締まり、国境警備、海外での情報収集などが任務。1991年に解体され、ロシア連邦の保安省に引き継がれたが1993年に一旦廃止。現在は新たに防諜局として存続している。
 スペツナズとは、旧ソ連軍の特殊部隊。参謀本部諜報局GRUによって運用され、主に海外における隠密作戦や困難な任務を果す。ロシア軍でもエリート中のエリートで編成、世界最強の特殊部隊と言われる。

 
 結局、わらわらと人が集まってきて、その中の人がお金を崩してくれました。そして、おばちゃんを含め数人がヒョードルにあれこれ説明を始めました。どうやら私の味方のようです。その間10分、ヒョードルもどきは帽子を深くかぶりなおすと、諦めたように去っていきました。事の顛末は以上ですが、何か外国人がトラブル起こせば(こんなのトラブルでもないでしょう!)、すぐしょっ引く体制なのです。
 
2、公園で歌っていたら、ラーゲリに連行?
  
 ラーゲリとはロシア語で広く収容所を意味しますが、諸外国、とくに第二次世界大戦後に抑留されたドイツ人・日本人にとっては、強制収容所を差します。
 
 二度び連行されそうになるも、現地のロックンローラーが助けてくれました。 
 
 これは以前書いた記事に ⇒ イエローサブマリン


  
3、ハバロフスクの空港でギターを?
 
 帰路、新潟行の飛行機はエンジントラブルで6時間も遅れた。待合室でまんじりと時間を潰すことに。それ以前、ここでも税関を通る前に一悶着がありました。

 旅では街角や公園でストリート演奏する為、ギターを持参することが多いのですが、手荷物のX線でギターが引っ掛かりました。金属部品などわずかですが、調律をする音叉(鉄製)がよく引っ掛かります。いつものことなので、説明すれば足ります(さすがに空港は英語が通じますので)。ただし、ここで通じない物もありました。折り畳みが可能な金属製の譜面スタンドです。

 ザキトワさん(※3)を一層きつくした顔の空港職員は執拗に「これは何?」と言っているようです。女性でも強面、生まれて一度も笑ったことがないのでは?、とすら思わせる鉄仮面です。恐らく譜面台とは見えないのでしょう。仕方ないので、ギターバックを開き、譜面台を組み立てました。足止め状態の乗客の列が注目する中、組み立て終わり、ギターを抱えて「何なら歌ってみましょうか?」と言って、ようやく理解したようです。
 

※3 アリーナ・ザギトワ  ご存じ女子フギュア2018年平昌オリンピックの金メダリスト。日本では秋田犬マサルが贈呈されたことも有名。メス犬だがマサル、日本人だけがそれを気にしています。
 
 そそくさと譜面台をたたみ、ギターをしまい込みながら、「だから、ミサイルじゃないって言ったでしょ」とブツブツ、緊張な面持ちの乗客達でしたが、これがうけたのか、どっと笑いが起きたのでした。そっとザキトワさんの顔を見上げると、彼女もわずかに苦笑い。(勝った!)意気揚々、胸を張って日本へ戻りました。