15年前の記事を令和7年版にブラッシュアップします。事故の初期対応についての記事ですが、打つべき手を説明します。すでに弁護士に相談も、初期対応ができていない被害者さんが令和になっても実に多いのです。
弊所の事故相談が単なる法律相談と違うこと、それは解決までのロードマップを示すことです。「法律的にはこうなります」など、被害者の疑問にお答えするだけで終わらず、解決までの手続きや作業を列挙、具体的に指示します。
典型的な例をお話します。ある相談者さんは自動車で通勤途上、交差点で出合い頭事故で首を痛めて、会社を休むことになりました。日給月給で、当面の生活費に困っています。そして「無料相談」にひかれ、先に弁護士の無料相談に電話しました。過失割合などの回答は頂いたものの、労災や健康保険の手続き、自動車保険の請求に話が及ぶと「それは各窓口で聞いて下さい」と回答です。
弁護士費用特約に入っていないので、弁護士はどうも委任契約を遠慮気味で、後遺障害等級が認定されるまで相談扱いのようです。つまり、様子見を決め込んでいるのです。本人の主張も、過失割合「20:80じゃ納得できない!」ばかりです。
この被害者さんが急ぎ打つべき手は・・・
1、労災申請。治療費の圧縮を図ります。まず労災のメリットを最大活用します。
2、自身加入の傷害保険や共済、日額払いの搭乗者傷害保険など、取れるものは速やかに請求します。
3、主治医と面談し、初診時から頚部の神経症状について、症状の訴えが一貫しているか確認します。追ってMRIの実施。後の後遺障害認定に備えます。
4、労災又は相手保険会社へ休業損害の請求。労災から確保できれば、不足額の請求は最終的な賠償交渉に棚上げで良いと思います。まれに労災の休業給付で足りない40%ほどの休業損害金を、保険会社が並行して支払ってくれる場合もあります。
5、加害者側保険会社と物損の示談。弁護士の介入以前に、相手から有利な提示がきていれば飲みます。紛糾する場合は、弁護士に託し、最後の賠償交渉に棚上げでもよいと思います。
このように、前半戦から必要な作業があります。弁護士費用特約がなく、法律家に依頼したくても経済的に困難であれば、他の傷害保険や搭乗者傷害保険の部位・症状別定額払いを有効活用します。とくに、部位症状別払であれば、治療日数が5日以上になれば請求可能です。自身契約の保険会社に連絡し、即6万円の支払を受けられます。これを使って法律家への着手金に充当すればよいのです。
労災対応に切り替えたら、相手保険会社に労災切替の報告をします。労災治療は保険会社も歓迎するところで、今後の対応も和らぎます。相手保険会社にとっても、一括対応(治療費の支払手続き)をせずに済み、自由診療と違って安く上がりますのでメリットがあるのです。
通勤中ではなく、労災の対象外であれば、健康保険の適用も検討します。最終的に、全ての賠償額から自身の過失分20%が差っ引かれます。ならば、健保治療で治療費を半額にすれば、最終的な受取額が増える計算です。労災治療に同じく、相手保険会社もにとっても治療費が安く上がります。
物損は、相手が妥協的な割合を提示するなら、さっさと示談し、修理費を払わせます。渋い回答のままなら、最後の賠償交渉に棚上げ、弁護士に任せても良いと思います。実は、弁護士が交渉するよりも、被害者の粘り強い交渉によって、早期に解決を図りたい相手の物損担当が妥協してくることがあります。
後は、半年後の症状固定日に向けて、間違いのない後遺障害等級認定へまっしぐらです。この間、被害者は治療やリハビリに専念、すみやかに復職すべきです。これが戦略的なロードマップです。ほとんどの弁護士先生は後遺障害が認定されるまで動きません。場当たり的なアドバイスはしてくれますが、後遺障害の結果がでるまで待機が普通なのです。弁護士の仕事は最終的な賠償交渉だからです。
被害者自身も、いつまでも僅か数万円しか増減しない過失割合でだらだらもめていて、上記の手続きをしないとどうなるか?・・最大の賠償金となるであろう、後遺障害の立証自体が手遅れになってしまいます。