諸々の費用で保険会社と争ってきましたが、その最終的な目的は、ご自身の損害に似合った金銭賠償を確保することに異存はないはずです。最終的に「なんぼもらったか」ですね。
 
 もし、半年以上治療して、症状が残っているのであれば、治療費の延長でぐずぐず交渉せずに、さっさと症状固定し、後遺障害申請すべきです。症状固定とは、一定期間の治療の結果、症状が劇的に良くならない、悪くもならない安定した状態で、一旦、治療の中止とすることです。これは、本当に治療をやめることではなく、もちろん自費での通院継続は自由です。ただし、保険会社に治療費を負担させる事故治療は中止するという意味で、賠償上の区切りとされています。
 
 後遺障害保険金・賠償金は、大きく分けて、後遺症による慰謝料(精神的損害)と、後遺症による逸失利益(将来失われるであろう利益)の二つです。
 
(1)後遺障害・慰謝料

 表を見て頂いた方が早いです。


 

 このように、一番軽い後遺障害14級であっても、自賠責保険の基準で32万円、任意保険では32~40万円、弁護士に依頼して交渉すれば、最高110万円まで伸びる可能性があります。

 骨折があれば、治療結果にもよりますが、12級以上も望めます。その慰謝料、なんと290万円です。
 
(2)後遺障害・逸失利益
  
事故前年の年収 × 等級に応じた喪失率 × 喪失年数(年数から中間利息を控除したライプニッツ係数)
 
 で計算されます。保険会社との賠償交渉で争点となるのは、この喪失率と喪失年数です。この数値で逸失利益の計算は大きく変わります。
 
 では、成功例を計算してみましょう。

 むち打ち患者の主婦Aさんは、14級9号が認定されて、弁護士に交渉を任せた結果、満額取れました・・・

 3826.3万円(主婦の年収)× 5% × 4.5797 = 876166 円

(1)の慰謝料110万円を足して1976166円、この約200万円の獲得こそ、交通事故解決のクライマックスです。
   
 さらに、入通院期間の慰謝料も加算されます。主婦Aさんは、隔日通院(2日に1回のペース)で、任意保険会社の提示は661500円前後、対して弁護士が請求すると890000円まで交渉幅があります。すると、合計およそ300万円がお財布に入ってくる計算です。
  
 さて、今まで争ってきた、修理費、代車代、休業損害、差額ベット代、交通費、打ち切り後の治療費など・・・争ってきた不足金額は、この300万円以上でしょうか?

 (もし、14級を逃したとしても、入院・通院回数によりますが、せめて傷害慰謝料は60万円以上を確保したいところです。できれば、89万円を目指したい。この増額交渉は、交通事故紛争処理センターへ斡旋を申し込んで自ら交渉するか、弁護士に依頼すれば現実的になります。)
 
 もうお気づきですね、たかが数万円で争うことの愚を。前回まで解説してきたように、紳士的に交渉しても出してくれなかった不足額は、その時その時で一々紛争化させずに棚上げにして、後遺障害を取ってから、まとめて請求・交渉再開すべきなのです。とくに、打ち切り後の治療費など、後遺障害が認められたこと=「治っていなかったのですから、払って下さい」と言えば、立替てきた治療費数万円の回収など実に容易です。

 休業損害も不足分あれば、弁護士に計算してもらい、最後に追加請求すればいいだけの話です。後遺障害が残る程のケガだったのですよ。通院中と違って、相手保険・担当者も、ややあきらめ気分で交渉に応じてくれるはずです。

 修理費で争った20万円も、出してくれなかった代車代5万円も、タクシーの使用回数でもめた交通費数千円も・・急いで、必死に、青筋立てて、保険会社の担当者との関係を壊してまで、争うほどの金額ではないのです。

 つまり、戦う場面は、 後遺障害・認定後 です。

 それまで我慢、「細かい費用でケンカするなよ!」と言いたいのです。

 昨日説明したように、一々保険会社にかみついて、担当者に悪印象を持たれると・・・後遺障害の審査をする自賠責保険・調査事務所に、なぜか、そのようなネガティブな情報が伝わるものです。私がSC(保険会社の支払い部門)に配属中、何度この調査事務所からの電話をとったことか。
 
 明らかな骨折や、重傷案件では、それらの情報など関係なくジャッジされるでしょう。しかし、他覚的所見に乏しい、つまり、患者が痛いと言っているだけのむち打ちはじめ、打撲・捻挫の診断名は、訴える症状の信憑性が問われます。その患者さんが、もし、

 余分な改造部品を修理費に混ぜたズルい請求、事故の衝撃で腕時計(ローレックスが多い)が割れたから弁償しろ、全損自動車の査定額が気にくわず、代車をなかなか返さなかった、休業損害の請求で(会社とグルになって)盛り盛りのかき揚げ請求書を提出した、タクシー通院にこだわって大喧嘩、治療費打ち切りに対して本社のお客様センターに苦情を入れた・・・

 これらの騒ぎは、”賠償志向の強い被害者”として、ネガティブ情報となって自賠責に伝わり、「これじゃあ、訴える症状も大げさなのでは?」と予断されかねません。最大の賠償金となる後遺障害の認定上、これらの悪情報が致命傷となってしまう心配をしているのです。
 
 追い打ちをかけるようですが、これまで散々ケンカしてきた任意保険の担当者が、自賠責にどんな情報を流すのか・・変な意見書が渡ってないか・・最後に仕返し倍返しされたら…後遺障害保険金200万円は「お し ま い death!」

 いかがでしょうか? ことわざに曰く、「木を見て、森を見ず」 に陥ってしまう被害者さんの実に多いこと・・


 
 もし、ご自身がまさに交通事故にあって、ネットを検索、幸運にもこちらを読んで頂けたら、きっと、解決までの損得勘定、戦略を考えて下さると思います。そして、ご自身単独で戦うのに不安があれば、早く専門家に相談することです。骨折以上の重傷であれば、無理をせず、早めのご相談をお勧めします。

 もう、戦うタイミングはおわかりですね。 些細な費用でケンカせず、最後の大物を取り逃さないように。