行政書士法1条

第一条の二  行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であっても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

 

 この下線部によって、行政書士に役所への申請書類の代書、代理提出以外にも、一般的な法律書類も含んだ代書権がありとされています。ここで注意が必要なのはすべての法律書類ではありません。「権利義務、事実証明」に限定されています。これが弁護士と行政書士の仕事の境界線となります。
 これは「事件性の必要説、不必要説」と呼ばれる学説の対立に及ぶ話なので、本一冊では済まなくなりますのでスルーします。大まかな対立は、過去の判例で、「法律書類は弁護士のみ:A説」と判決されたこと、「もめごとに発展するまでは他士業でもOK:B説」とされたこと、この2つの説の対立につきます。現状は決着がついたとは言い難いようです。
 実例で話を進めましょう。
  

 太郎さんは自動車運転中、追突被害を受けました。加害者に修理費50万を請求しなければなりません。そこで知人の紹介の行政書士に報酬5万円を支払って、相手への請求書を作ってもらいました。 

          

 A説によると法律上の損害賠償請求行為なので「非弁行為」=72条違反となります。一方、もめることなく加害者がちゃんと50万円弁償してくれた場合、B説では請求行為に留まり、行政書士法の範囲内となります。しかし相手が「50万円は高い!」と反論して来た場合、もめごと=事件に発展します。さらにこの行政書士が「部品代はこれくらいする、だから払いなさい!」と応じれば、外見上「交渉」したことになります。これでは72条に抵触してしまいます。

 A説はいくつかの判例がもとになっており、これを無資格者だけではなく、他士業に対しても強硬に主張している弁護士会が存在します。そもそもこの問題は、「無資格者が行う場合」と、「代書権をもつ行政書士が同第一条の二に基づいて行った場合」とを分ける必要があると思います。A説を採用したとして、無資格者は完全な非弁行為ですが、代書権者はOKか?という議論となります。つまり弁護士法72条後段の例外規定に行政書士法第1条の二が該当するか否か・・・これが論点なのです。この論点を踏まえずに、「すべて非弁だ!」と主張するから、「弁護士法72条は縄張り規定か?」と言われてしまうのです。

 法理論上、見積もりを作る、写真等の証拠書類を集めることは「事実証明」、そして相手に請求書を突きつける請求行為は「意思表示」とされており、これらの代行は法律上の「代理行為」とまでは及ばないとも解されています。この理論にA説は反論しきれていないと思います。このように混沌としていますし、A説は極端すぎる?のか弁護士会の非弁行為取締もケースbyケースとしているようです。

 またB説の場合、請求書の代書と提出=「権利義務・事実証明」の主張に留まる限りはOKですが、相手の反論が生じた場合は「紛争」に移行し(疑義・新形成説)、事件性を帯びます。さらにそれに対して太郎さんに代わって交渉すれば、「代理行為」そのものとなります。

 交通事故の多くは穏便にいかず、それなりの交渉が伴います。だからこそ行政書士は法律上、この水際をしっかり守らなければならないのです。もっとも私の場合、この水際(グレーゾーン)には距離を置き、弁護士に任せてしまいますが・・・。

 つづく