【2】神経根型


 
 神経根型とは、上図のように脊髄から左右に派生する、神経の通る鞘(さや)に、椎間板や骨棘の圧迫が生じる状態です。左右両方への圧迫もありますが、多くは左右どちらかの圧迫で、圧迫側の上肢に放散痛(腕を走るようなビリビリしたしびれ)が発症します。スパーリングテストとは、わざと首を横に倒して、神経根への圧迫を強め、その放散痛を誘発させるものです。

右に倒すと、右腕~指がビリビリ

 これは、左右の神経根が鎖骨下の上腕神経を経由して、腕の3本の神経(橈骨神経、正中神経、尺骨神経)を経て、指先の抹消神経までつながっているからです。このように、通常の頚椎捻挫に比べて、神経症状が明らかに説明できます。
   
(1)症状

 肩から手指にかけてしびれを自覚します。首を曲げるとピリピリとした感覚が走ります。先の説明の通り「放散痛」が主な症状です。この状態はMRIで視認できます。薬は単なる痛み止めから、神経性疼痛に対処する「リリカ(プレガバリン)」に変更されます。それでも効かない場合、「トラムセット」など、オピオイド系(麻薬の成分入り)になります。
 
 神経性疼痛の痛み止め薬 👉 リリカ トラムセット
 
 MRI検査後、被害者さんの多くは、「事故でヘルニアになった!」とびっくりしますが、事故の衝撃で椎間板ヘルニアになることはなく、多くは加齢によるもの(年齢変性)です。もし、事故の衝撃で椎間板が飛び出すような衝撃なら、頚椎の骨折・脱臼、脊髄損傷になるはず、命に関わる外傷になります。

 理論的には、神経に元々圧迫があった部分に事故の衝撃が加わり、神経症状を発することになります。知覚障害、放散痛、筋力低下など、諸々の神経症状が現れます。神経の圧迫が続く限り症状は残存しますので、ひどいと手術適用になります。
 
(2)治療

 基本的に頚椎捻挫と変わりませんが、より症状は長引くはずです。MRIの診断で頚椎( 第1頚椎(C1)~第7頚椎(C7) )の、どの部分の神経根を圧迫しているかを確認します。神経への圧迫を物理的に除去するには手術しかありません。手術はそれなりに大事です。余程ひどい神経症状でもない限り、軽度の圧迫程度で手術は選択しません。症状が治まるのを待つような、地道な治療を続けることになります。

 圧迫部位としてはC5/6、C6/7間、C8の部分が多いようです。そしてなるべく早い段階で医師にスパーリングテスト、ジャクソンテストをしてもらい、カルテに記入してもらいます。

 

 症状によっては神経ブロックが有効で、痛み・しびれを和らげる効果があります。硬膜外ブロック、K点ブロック、星状神経節ブロックなど、注射を打つ場所は頚部になります。薬剤はキシロカイン、カルボカイン等の麻酔薬が主で、この注射は神経科の領域になります。最近では、ペインクリニックの呼称で個人開業医でも施行しています。なんだか調子悪い≒不定愁訴(ふていしゅうそ)がひどい場合、バレ・リュー症候群の可能性があります。詳しくは、Ⅳ「バレ・リュー症候群」で解説します。
  
◆ 軽度のヘルニアであれば保存療法ですが、ヘルニアの切除、レーザーで焼き切る術式があります。ヘルニアの突出や変形がひどければ、神経への圧を除去するための前方固定術や、椎弓形成拡大術が選択されます。手術は、脊椎外来などを擁す、医大系・専門医の執刀になります。このレベルになると、もはや、むち打ちの範疇を逸脱します。固定術が成された場合では、後遺障害も11級7号に及びます。改めて、脊椎の後遺障害にて解説します。

 
 
(3)後遺障害

 MRI画像から、はっきりと神経根圧迫が認められれば、しびれや痛みの症状の根拠となりますので12級13号の対象となります。ただし、40歳を超えた人は、大なり小なり頚椎の変形、とくに椎体の骨棘化(こっきょくか)による圧迫があり、椎間板の膨隆(バルジング)が普通にあるものです。したがって、画像上微妙な場合は、ほとんどが14級9号となります。

 診断書には他に徒手筋力検査、筋萎縮検査、 腱反射、知覚を加えるとベターです。12級レベルの神経症状は、画像と神経症状の一致を検証しますので、これらはマストになります。12級は他覚的所見(=証拠)が揃わないと認定しません。丁寧に立証する必要があります。
 

  
 次回 ⇒ むち打ちの病態分類 Ⅲ