【3】脊髄症型(正中型)


 椎間板や骨棘が、脊髄を圧迫するものです。左右の神経根への圧迫と区別して、正中型とも呼ばれます。
 
(1)症状

 事故後、頚部痛どころか、上肢や下肢までひどい”しびれ”が生じている場合です。例えば上肢については、両手で顔を洗うときに両手が上手く動かない、ボタンがかけずらい、歯ブラシが上手くできない、ボタンがはめられない・・。下肢については、しびれで長時間の歩行でだるさを伴い、階段昇降で痛みが走る・・。神経根圧迫であれば片側の上肢のみに症状がでることに対し、両上肢、あるいは下肢にまで及ぶ場合、(重度の)脊髄損傷か(軽度の)脊髄症型を疑うべきです。
 
(2)治療

 まずレントゲンで頚椎の損傷がないか確認します。次いで、MRIでヘルニアの脊髄圧迫なのか、脊髄そのものに損傷があるのかを判断します。ヘルニアの圧迫であれば神経根型と類似の治療となります。脊髄に損傷がある場合、必ずT2(高輝度所見)で撮影します。この場合は脊髄に不自然に白く光る病変部が移ります。造影剤を使うこともあります。脊髄に高輝度所見が現れた場合、脊髄損傷は確定的です。これは、「むち打ち」どころの騒ぎではなくなります。

 受傷直後は安静が第一ですが、積極的な処置として、やはり神経ブロックが有用です。症状に応じて硬膜外ブロック、星状神経節ブロックを選択します。このブロック注射は手術扱いで点数(治療費)の高さから、一部の整形外科で積極的に採用しています。しかし、腕の差がかなりでる技術なので医師選びが重要です。

 医師によっては、ステロイド治療に積極的です。副作用が強い薬剤なので、自身の症状と比べて、慎重な判断が望まれます。

 画像に現れるほどの脊髄損傷ならば、残念ながらほぼ不可逆的です。神経線維の切断された脊髄は、手術での回復は見込めません。最新の電極を埋め込む術式(脊髄刺激電極埋め込み術)も、完全ではありません。

 対して、脊髄圧迫に留まる場合でも、麻痺が進行しているケースでは手術適用となります。前方固定術が代表的で、この手術は脊髄を圧迫している椎間板を除去し、腸骨の骨片を空いた隙間に埋め込みます。こでれ、脊柱の隙間が広がり、脊髄への圧迫が除去されます。脊柱管狭窄症でも、この術式が用いられます。これも、執刀する医師により判断したいところです。

 手術は、執刀数や評判を調べて、医大系の専門医を選びます。ちなみに、実家の近所の整形外科で椎間板切除に積極的な医師がいます。あまり病態が深刻ではない患者にも手術を勧めるので・・ちょっと心配です。
 
 下肢への症状があり、同時に腰を受傷した場合、腰部の脊髄を損傷していないかも調べます。
 
(3)後遺障害

 脊髄損傷はそもそも外傷性頚部症候群から外れており、体の麻痺を伴う重篤な神経障害です。その症状に応じて等級認定されます。固定術が成された場合では、11級7号に及びます。これらは別の機会に譲ります。
 
 脊髄に高信号のない脊髄症に留まる場合、神経根型に同じく12級13号14級9号の選択となります。画像上、圧迫所見が顕著であれば12級に該当しますが、微妙なものは14級9号に落とされます。
 
 診断名だけで画像所見がないと 👉 14級9号:中心性頚髄損傷(40代女性・埼玉県)
 
 症状は重篤ながら、14級に落とされた実例 👉 14級9号:頚髄損傷(40代男性・東京都)
 
 12級狙いなら、綿密に検査を行う必要があります。基本のスパーリングテスト、ジャクソンテストはもちろん、神経根型に同じく、徒手筋力検査、筋萎縮検査、 腱反射、知覚、これらの所見が圧迫部位の画像と一致していなくてはなりません。
 
 脊髄型はとくに、バビンスキー、膝・足クローヌス、ホフマン、トレムナー、ワルテンベルグ、手指の巧緻運動を加えます。脊髄に異常があるときにそれぞれ陽性反応を示します。


  左から ホフマン、トレムナー、ワルテンベルグ
 

 脊髄から右神経根への圧迫所見がバッチリの認定例 👉 12級13号:頚椎捻挫(40代男性・栃木県)
   
◆ 画像上、不明瞭でも症状が重篤であれば、筋電図による立証になります。これも難易度が高く、そうそう検査数値にでないものです。何より、「むち打ち」程度で、筋電図の指示など、普通は医師が出しません。さらに、腕の数か所にぶすぶす針を刺して、関節を動かすので、診察室から悲鳴が聞こえてくるほどの激痛です。筋電図検査での立証はハードルが高いのです。
 
 簡単ではありません 👉 筋電図検査をお願いします
 
  
 むち打ちでも見逃してはならない深刻な病態もあります。漫然と治療を続けず、自身が何型のむち打ちなのか把握することが大事です。保険金や等級云々よりも後遺障害は残さない方がいいに決まっています。
 
  次回 ⇒ むち打ちの病態分類 Ⅳ