胸郭出口症候群、脳脊髄液減少症・・むち打ちの分類から外れますが、むち打ちを契機に、これらの診断名が付けられる被害者さんも多いものです。「むち打ち」を広義に捉え、解説に加えたいと思います。
  

胸郭出口症候群

(1)症状

 頚部痛だけではなく、主に片側の上肢にしびれと冷感が生じます。人によっては、肩こり、倦怠感、様々な症状を起こします。症状はかなり広範囲のようです。

 原因ですが、少し長くなります。腕の神経は頚部から両上肢に左右にそれぞれ5本ずつ走行しています。その通り道に、胸の鎖骨下、第一肋骨に前・中・後斜角筋、斜角筋、鎖骨下筋、小胸筋が存在しています。 それらの組織の損傷、変形で血管や神経の通り道が狭くなり、血管や神経が圧迫されたり、引っ張られたりする結果、知覚鈍麻・筋力低下の神経障害が発生してくるのです。

 神経根型は頚椎の位置によってしびれる箇所が分かれますが、胸郭出口症候群は肩の動きや角度でしびれが変わることが特徴です。

 ただし、胸部の組織が、必ずしも事故の衝撃で壊れたとは言えません。加齢に従って変性をきたすケースが普通だからです。それが、事故の衝撃をきっかけに発症するのですから、損害賠償上、ややグレーな印象となります。
 
◆ 引き金論

 むち打ちによる障害、その全般がグレーと言えます。事故を契機に発症し、その後半年、症状の一貫性があれば、元々の変性があったとしても、事故の衝撃で何等かの神経障害が惹起されたはず・・・。「事故が引き金となった障害」、私達はそう解釈しています。
  
(2)検査と治療

 簡単にできる検査は以下の通りです。


 
〇 Morleyテスト  鎖骨上窩を圧迫すると、上肢が痛みます。
 
〇 Wrightテスト  肘のレベルまで両手を上げた状態で、橈骨動脈が触れなくなり、胸骨出口部が痛くなります。
 
〇 Roosテスト  Wrightテストの状態で、手・指の屈伸を3分間行い、腕神経叢に圧迫がある場合は、腕がだるくなり、指が痺れてきます。 静脈に圧迫がある場合は、上肢が青白くなり、チアノーゼが生じます。
 
〇 Edenテスト  両肩を後ろ下方に引っ張り、胸を張ってもらうと脈が触れなくなります。
 
 確定診断には、容積脈波やサーモグラフィーの検査を行います。それにより病源を特定し運動療法を行います。痛みがひどい場合には薬物、可動制限が著しい場合は手術を検討しますが、保存療法が第一としています。
 
(3)後遺障害

 胸郭出口症候群の傷病名から直接の認定はありませんが、全体として神経症状の残存で審査されます。画像所見や器質的損傷を伴えば、、12級13号、自覚症状のみでは14級9号と、他の神経症状の認定と変わりません。
 
 かつて、岐阜の脳神経外科医・加納先生が血管造影検査と手術で成果をだした途端、全国の患者が加納クリニック殺到し、一大キャンペーンの様相を呈しました。もちろん治療の成果は上がりましたが、予後の後遺障害の多くは非該当が多かったと聞きます。深刻な症状の方は、勝負の場を裁判に持ち込み、いくつか訴訟上の認定となったようです。

 この一大キャンペーンの患者さんの一人、別件の事故にて受任しました。当時の”お祭り”騒ぎを、当人から聞きました。ところが、ここ数年はめっきり下火となり、胸郭出口症候群や脳脊髄液減少症(最新名は低髄液圧症候群)の相談者さんがいなくなりました。おかしな話ですが、交通事故外傷にも流行り廃りがあるのです。

 ある傷病名が有名になると、それを診断する病院に患者が殺到し、後遺障害の申請数も爆上がり・・・病院も審査する自賠責保険も大変ですね。
 
 ⇒ むち打ち の病態分類 Ⅵ (最終回)