尺骨茎状突起骨折(しゃっこつけいじょうとっきこっせつ)
 
 秋葉事務所でも数多くの認定実績があります。

 

(1)病態

 尺骨の尖端にある突起の骨折です。骨が成長期である子供は、この突起は完全な骨になっていませんので、成長期が終わった後の年齢から、通常は、橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)に合併して診られます。(骨が成長期の子供は、尺骨も橈骨と同じ高さ(=位置)の遠位端で骨折します。)

 初診時は、見落とされることもしばしばですが、その後、癒合しなくても痛みや可動域制限が残らないことも多いようです。橈骨遠位端骨折に比べると、後遺症は残りずらいと言えます。自覚症状としては、手首を回すとようやく痛みが出ます。尺骨茎状突起は骨癒合が非常に悪く、ギプス固定期間を長くする必要があります。

 XPで尺骨茎状突起骨折、予後の骨片化(偽関節)は診断できますが、TFCC損傷が併発した場合、MRIもしくは関節造影検査が必要となります。
 
(2)治療

 治療は、遠位橈尺関節に不安定性が認められるときは、尺骨茎状突起骨片の固定で対応し、TFCC損傷を合併しているときは、関節鏡により縫合が行われています。骨折・偽関節で痛みが激しいときは、骨片の摘出術が実施されます。

◆ 秋葉事務所の経験則では、ほとんどのケースで深刻な痛みや不具合がなく、保存療法とされていました。つまり、折れたまま放置なのです。他に尺骨や橈骨の骨折があれば、その治療・整復はしますが、尺骨茎状突起部が折れても積極的な治療はしませんでした。強い痛みや不具合がなければ、当然にそうなります。弊所が深刻に思う点は、それが長管骨の偽関節として12級8号が認められるにも関わらず、診断名すら無いことが多いのです。つまり、お医者さんですらスルーするのですから、被害者さんが何も主張しなければ、200万円を超える保険金を失う事を意味します。
 
(3)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 手関節の可動域制限は、レントゲンと3DCでT茎状突起の偽関節化が明瞭であり、関節面に手首の可動を阻害するほど転位があれば、認められると思います。ただし、そのような深刻な例はみたことがありません。多くは、偽関節化を理由とした「長管骨の変形」12級8号の認定を狙います。


 
 オートバイ事故の例 👉 12級8号:左尺骨茎状突起骨折(30代男性・静岡県)
 
 見逃された尺骨茎状突起骨折を発見! 👉 併合11級:橈骨遠位端粉砕骨折(40代男性・神奈川県)
 
◆ 尺骨茎状突起骨折のすべてが偽関節の12級8号と認定されるわけではない?

 12級8号は「長管骨の変形」の障害です。つまり、尺骨自体の変形が明瞭である必要があります。また、骨が癒合しなかった=偽関節が認めらる場合、尺骨の連続性が絶たれていることが要求されます。骨の角が欠けて遊離骨片した程度は、それに含みません。尺骨茎状突起部もその判定に付されているのです。
 
 その実例 👉 実績投稿:偽関節か骨片か?
  
Ⅱ. 毎度、最期に痛み・不具合の「神経症状」14級9号が残りますと書いていますが、尺骨茎状突起骨折ではそうも言えません。多くのケースでほぼ無症状です。
 
◆ また、ほとんどのケースで折れたまま、と書きましたが、かつて癒合したケースもありました。将来的に癒合は難しいであろうとたかをくくり、ご依頼者の希望もあって、半年を超えても症状固定をしなかったケースです。それが、9カ月目に癒合を確認し、まんまと12級を逃しました。若い事もあったと思いますが、いつだって症状固定の判断は早い方が、後遺障害の認定は容易です。被害者さんは、その損得勘定を考えなければなりません。
 
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