頭部を受傷、脳にダメージを負った結果、認知障害や記憶障害、性格変化、身体の麻痺などの後遺障害をもたらすのが「高次脳機能障害」です。10年前はその後遺障害等級の判断が整理されていませんでした。今でこそ知られるようになったこの障害ですが、立証・裁判の実例にかなりバラつきのある分野です。それは画像や計測値だけではなく日常生活の変化を正確に観察・申告するといった要素も加わるからです。そして立証も様々なハードルに直面します。

① 事故直後の意識障害の様子がしっかり記録されているか?

意識不明、昏睡状態と記録されていれば問題ないですが、記録が空欄もしくは混濁程度に書かれると、障害そのものが認定されなくなります。ここで「意識清明」と書かれたら100%非該当となります。これを覆すのは絶望的です。

② 運ばれた病院が高次脳機能障害に対応できているか?主治医の知識・理解があるか?
 
 主治医も急性硬膜下血腫等で手術を行えば後遺障害の可能性を認識します。しかしレントゲン撮って「骨には異常ないですね」、CTで「脳挫傷はないです」、もしくは「わずかです」となると経過観察で入院して2週間で退院?なんて例もありました。脳のダメージは丁寧に画像診断しなければいけませんし、ダメージを受けた脳の特徴である脳委縮は徐々に進行して3か月後に顕著になるケースもあります。当然この病院での検査は無理です。設備のある病院での検査のやり直しが必要となります。

③ そして検査だけやってくれる病院はほんとんどありません。

 事故後1年。家族は回復の願いを込めて被害者に接していますが、忘れっぽい、外出すると迷子になる、家電の操作ができない、会話が成り立たない、キレやすい、趣味に興味を示さなくなった、無気力・・・そして多くの場合、本人に障害の自覚がない。この段階で等級認定に入るのですが、①②のつまづきがあると立証作業は困難を極めます。何故なら十分な検査体制のある病院は日本に数えるほどで、設備があったとしても「治療した病院の検査が不足していましたらから検査だけやって下さい」と言ってもほとんどの病院が嫌がります。強力なコネでもない限り遠まわしに断ります。その理由は単に治療での収入がないのに検査だけは損、検査機材の補助金の問題等様々な裏事情が絡みます。医療関係者の誰もが口をつぐむ問題です。

 

 上記は実際に経験した例です。いかに早めにご相談頂かなければならないかおわかりと思います。回復への希望、主治医への気遣い、保険会社担当者への過ぎる期待・・・ご家族の方はこれらから距離を置いて冷静に考えることが必要です。

 現在2名の高次脳機能障害案件を担当中です。この分野について適時解説していきたいと思います。