今日は福島まで病院同行です。正確に言うならば入院患者さんの医師面談に同席するための訪問です。

 この病院、今年から脚の骨折の重傷者を専門に診て頂けるチームが都内大学病院から異動してきました。何名かの依頼者さんを追いかけての訪問となります。医師面談の被害者さんだけではなく、他の入院中の依頼者さんを回ってきました。まるでお医者さんの回診みたいです。 皆、イリザロフ創外固定をしています。

 骨癒合が思わしくない、感染症にかかった等の重傷者は創外固定を行っています。その固定具(イラスト左)を一緒くたに、ロシア人医師(イラスト右)の名前からとって「イリザロフ」と呼んでいます。

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 骨を伸ばす(伸張術)イリザロフ法についてはネットでは関西の「スカイ整形外科クリニック」さまの解説が非常に解り易いのので、興味のある方は一読を勧めます。
 それでは、よい機会ですのでイリザロフ法をおさらいしましょう。
 
 骨延長とイリザロフ創外固定器

 イリザロフ式創外固定について説明します。先年お亡くなりになられましたが、日本では、大阪赤十字病院の元整形外科部長の大庭健先生が中心となって推進された手術法です。大阪赤十字病院・大手前整肢園で手術例は300例を超えました。元々は、旧ソ連のクルガン地方で第2次大戦後の戦傷兵の治療に携わっていたイリザロフ医師が偶然に発見した治療法です。

 クルガン地方はモスクワから3000km離れた西シベリアの辺境です。医薬品・医療器具、そして電気さえもままならない状況の中で、イリザロフ医師は自転車のスポークを鋼線の代わりに利用して骨に刺入し、これに緊張をかけて独自のリング状の固定器に接続をして骨片を固定する方法を開発しました。ある患者にこの固定器を取り付け、術後医師が休暇を取って不在の間に、患者が固定器に取り付けられていたナットを間違って逆回転させました。つまり締め付けるところを緩めてしまったのです。

 休暇から戻ったイリザロフ医師は骨移植の必要を感じ、患者の骨折部をレントゲン撮影をしたところ、骨折部の間隙はすべて新生骨で充填されていたのです。つまり、飴細工のように骨を伸ばしたり、骨幅を増やしたり、どのような変形でも3次元的に矯正できるのがイリザロフ式創外固定器なのです。

 大阪赤十字病院では、骨折部の腐骨を大胆に骨切り、強酸性水で洗浄、抗生物質を振りかけた後に創を閉じイリザロフで6cmを超える骨延長を計ったのです。術後、6時間ごとに、創外固定器に取り付けられたレバーを回して、1日に1㎜の脚延長を続けて行く驚きの代物です。
  
○ 余談になりますが、最近美容整形で身長を伸ばすのにこのイリザロフ式創外固定器が使用されています。片足1000万円、両足で2000万円かかります。

○ イリザロフ以外にも、アルビジアネイルと称する延長機構を内在した大腿骨髄内釘で延長をすることができます。フランスのギシェ医師が開発した、このアルビジアネイルは閉鎖式骨固定法ですから、創外固定に比較して感染の危険性が少ないことが可能です、また、治療完了までの日常生活への障害を少なくすることにもなります。
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○ 骨延長では、東京大学医学部付属病院が最先端で、一歩も二歩も、リードしています。黒川高秀名誉教授、中村耕三教授を中心に手術例も500例を超えており、骨延長が教室の中心的なテーマとなっています。他にはイリザロフ法を含め、下肢の重傷骨折を一貫して治療できる、国内でも希少なチームが帝京医科大学病院に存在、東大の松下教授以下、精鋭チームが活躍していました。現在は先に述べたようにこの帝大のチームは南東北病院に移動しています。
  
 明日はイリザロフと密接な関係をもつ感染症を解説します。