どうしても、取り上げなければならないニュースが入ってきました。妊婦の死亡事故ですが、胎児を帝王切開で出産しました。ただし、胎児には事故の影響と思われる障害が残ってしまった痛ましい事故です。

 まず、お母さんは普通に死亡事故による賠償請求の対象として、問題はお腹の赤ちゃんへの損害をどう見るか・・です。民法では以下の通り。
 
 第721条 : 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。
 
 法律通りに解釈すると、赤ちゃんの慰謝料や逸失利益を請求する余地は、その障害が”事故によるもの”として因果関係を立証すれば果たせそうです。


 
◆ 「胎児を既に生まれたものとしてみなす」ということについては、解釈として法定停止条件説と法定解除条件説という2つの説があります。

 ① 法定停止条件説とは、胎児である間には権利能力が認められず、胎児が生きて生まれてきた場合にその不法行為時に遡って権利能力を認めるというものである(人格遡及説)。

 ② 法定解除条件説とは、胎児にも胎児である段階で権利能力を認め、胎児が死産であった場合には遡及的にその権利能力が消滅するというものである(制限人格説)。

 立法担当者の意図(脚注)や判例(大判昭和7年10月6日 阪神電鉄事件)においては法定停止条件説となっています。
 
自動車保険の適用は? 損害賠償等請求事件(最高裁判決 平成18年3月28日)

 自家用自動車総合保険契約の記名被保険者の子が、胎児であった時に発生した交通事故により出生後に傷害を生じ、その結果、後遺障害が残存した場合には、当該子又はその父母は、当該傷害及び後遺障害によって、それぞれが被った損害について、同契約の無保険車傷害条項が被保険者として定める「記名被保険者の同居の親族」に生じた傷害及び後遺障害による損害に準ずるものとして、同条項に基づく保険金の請求をすることができる
 
事故で流産・死産・中絶となった場合

 お母さんへの治療費や慰謝料等は当然ですが、胎児に対しては認められていません。第721条の解釈に基づけば、不法行為に伴う流産については、生まれてこなかった胎児に権利能力はないことになります。結果として、母親への慰謝料増額要素として考慮されます(父親の慰謝料については、裁判所の判断は分かれています)。
 
◎ 本件の議論は、刑法上、事故後に生まれてきた子供さんが被告、つまり、加害者へ刑罰を問う場合に、被害者の対象とされていない点です。刑罰の対象は母体に対してだけなのか・・・被害者家族を思えば、この当然の気持ちが、刑法上反映されるのか・・今後の司法判断に注視していきたいと思います。
 
<FNNプライムオンライン 様より引用>

「娘も被害者」交通事故で妊婦死亡・当時胎児だった娘は起訴状に名前なく・・脳に重い障害 残された家族が語る思い「こんな未来になるとは」

 2025年5月21日、愛知県一宮市で妊娠9カ月の研谷沙也香さん(当時31歳)が、歩いていたところを、突然後ろから車が追突し亡くなった事故。事故後、帝王切開によって生まれた娘の日七未(ひなみ)ちゃんは、一命を取り止めましたが、脳に重い障害が残り今も意識がありません。
 9月2日初公判が行われ、車を運転していた児野尚子被告(50)は、涙ながらに「事故の責任は私にあります。謝って済むことではありませんが、本当に申し訳ございませんでした」と起訴内容を認め、謝罪しました。しかし、被害者の夫であり父親である研谷友太さんは、納得できない点があるといいます。
 法律上、母親のおなかの中にいる赤ちゃんは「母体の一部」とされ、「人」とはみなされないため、起訴状に被害者として記されていたのは、奥様の沙也香さんだけ。生まれてきた日七未ちゃんの名前はありませんでした。事故当時、まだ胎児だった日七未ちゃんは、被害者とみなされなかったのです。

 娘も“被害者” 11万2000筆超のオンライン署名提出。 友太さんは9月2日、日七未ちゃんに対する過失運転致傷罪も裁判で扱うよう求める 、11万2000筆以上のオンライン署名を検察に提出しました。

 研谷友太さん: 娘を被害者として認めてほしい。娘がこの状態になってしまったっていうのは、事故によってそうなったっていうのは明らか。人間として生きている状態なのにも関わらず、「その人は被害者じゃありませんよ」。違和感でしかないじゃないですか。

 初公判で検察は、日七未ちゃんのけがの追加捜査を認めると言及。今後、日七未ちゃんが、被害者として認められる可能性はあるのでしょうか・・・。