皮下気腫、縦隔気腫(ひかきしゅ、じゅうかくきしゅ)

 

胸膜 左右それぞれの肺および胸壁の内側を覆う2枚の薄い膜

○ 胸壁 皮膚から胸膜までの壁のようになっている部分で、肋骨や筋膜からなる部分

○ 胸郭 胸椎・肋骨・胸骨で囲まれた籠

○ 胸腔 肺と胸壁と横隔膜にはさまれた空間で、胸水がたまるところ

○ 縦隔 左右の肺の間の部分、心臓、食道、気管や心臓に通じる大血管などがあるところ

○ 気道  鼻腔・副鼻腔⇒咽頭⇒喉頭⇒気管⇒気管支⇒細気管支で構成された空気の通路

○ 肺   伸縮する風船のような器官

○ 肺胞  気道の先端にある袋でガス交換の場

○ 心膜 心臓を袋のように包んでいる膜で、心のうとも呼ばれる

○ 横隔膜 胸郭の下辺をなす筋肉。収縮・弛緩により肺の拡張・縮小を調節する呼吸筋

○ 腹腔 腹壁で囲まれ、内部に胃や腸などの消化器が存在する空間

○ 腹膜 胃、腸、肝臓などの腹部の臓器および腹壁の内側をおおう薄い膜
 
(1)病態

 胸部外傷で、損傷した肺や気管から漏れた空気が、皮下組織にたまるのが皮下気腫です。気管や気管支が断裂したときは、左右の肺に挟まれた部位=縦隔に漏れた空気がたまります。これを縦隔気腫といいます。

 これらは、交通事故外傷、特に胸部の打撲、高所からの転落、挟まれたことによる挟圧外傷で、肋骨・胸骨の骨折や、肺、気管、気管支、食道などが損傷することで発症しています。

 皮下気腫では、胸や頚部に空気がたまり、その部位が膨らみ、強い痛みを訴えます。膨らんだ部位に触れると、雪を握ったようなサクサクとした感触があります。また、患部を圧迫すると、プチプチと気泡が弾けるような音を感じます。
 
(2)症状

 胸痛や呼吸困難を訴えます。縦隔気腫は、胸痛、呼吸困難、息切れ、チアノーゼの症状があり、多くで、血痰が確認されています。
 
(3)治療

 いずれも、胸部XP、CT検査で確定診断され、呼吸困難はパルスオキシメーターの測定値、SpO2で確認されています。軽度なものは、2~3週間の安静で治癒していますが、進行性で、拡がりの大きい皮下気腫では、皮膚切開による排気が実施されています。

 縦隔気腫では、その原因になる気管・気管支破裂、食道穿孔・破裂が精査され、内科的な治療で改善が得られないときは、損傷部位の縫合術が必要となります。
 
※ SpO2・・・パルスオキシメーターの測定値をSpO2と言います。血液中の酸素の大半は、健康であれば99%近くは、赤血球の中のヘモグロビンによって運ばれます。
 
 血液中のヘモグロビンのうち、実際に酸素を運んでいるヘモグロビンの比率のことであり、単位は%で表示されています。
 
(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 皮下気腫もしくは縦隔気腫の傷病名であっても、呼吸障害を残す重症例は少ないのです。呼吸障害を残しているときは、肺挫傷のところで説明した、以下の3つの検査で立証します。
 
① 動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果
 
② スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度
 
③ 運動負荷試験の結果

 詳しくは 👉 胸腹部臓器の後遺障害 ① 肺挫傷 Ⅱ
  
Ⅱ. 交通事故110番の験則から

 タクシーを運転中の50歳男性ですが、山間部のカーブ地点で、センターラインをはみ出したゴミ収集車と衝突し、押し出され、2mほどの崖下に転落しました。傷病名は胸骨骨折、右血胸、縦隔気腫、頚椎椎間板ヘルニアです。症状固定段階の症状は、胸部痛、体動時の息切れ、左上肢、左4、5指のしびれでした。

 胸部XPで右肺が左肺よりも萎縮していることが確認できました。体動時の息切れについては、スパイロメトリー検査を受けたのですが、%肺活量が82でした。これでは非該当なので、運動負荷試験を依頼、その結果、中程度の呼吸障害と判定されました。

 胸骨骨折では、裸体で変形が確認できません。3DCTの撮影と、骨折部の骨シンチグラフィー検査をお願いしました。3DCTでは、僅かな骨癒合不良を認めましたが、これでは体幹骨の変形には該当しません。

 しかし、骨シンチでは、骨折部にホットスポットが認められ、不完全な骨癒合と、それに伴う胸部痛については立証することができました。

 頚椎椎間板ヘルニアは、MRI検査で、C6/7左神経根に僅かな狭窄が認められ、被害者の自覚症状に一致する画像所見が得られました。結果、呼吸障害で11級10号、胸部痛で12級13号、頚椎ヘルニアで14級9号、併合10級が認定されました。
 
Ⅲ. 縦隔気腫では、その原因に、気管・気管支破裂や食道穿孔・破裂が予想されます。こうなると、後遺障害は別のアプローチで立証しなければなりません。具体的には、気管・気管支破裂や食道穿孔・破裂で説明しています。
 
次回 ⇒ 気管・気管支断裂