(3)治療

 大動脈解離の主たる治療は、血圧を下げる療法と、手術療法があります。
 
① 血圧を下げる治療

 大動脈解離の被害者に、最初に実施される治療方法です。確実に血圧を下げる必要から、点滴で薬剤が投与され、急性期を過ぎると内服薬で血圧をコントロールしていきます。100~120mmHg 以下がコントロールの目標とされています。
 
② 手術、人工血管置換術

 手術では解離した大動脈を人工血管で取り換えるのが一般的ですが、解離した大動脈をすべて人工血管で取り換えようとすると、身体への負担が大き過ぎて、逆に死に至ることも予想されます。そこで,人工血管置換術では、内膜の傷の場所、解離の広がり、解離した血管の太さ、枝への血液の流れ、被害者の状態等を総合的に勘案して手術する場所を決定しています。
 

 
 下のイラストですが、上行大動脈に解離があるときは、上行大動脈に解離が無いときに比較して致死率が高いといわれています。これは上行大動脈に位置する解離では、心臓や頭部に行く血管、大動脈弁などが巻き込まれ、規模の大きい合併症が起こりやすく、また解離した部分が容易に拡大して破裂する危険性が高いためです。上記の理由で、上行大動脈を巻き込んだ大動脈解離は、緊急手術が実施されています。

 一方、上行大動脈に解離がないときは、下行大動脈が解離しています。下行大動脈の解離は大動脈の拡大が上行大動脈に比べて穏やかであり、破裂の危険も少なく緊急で手術を行うよりも、まず、血圧を下げる治療で経過を観察、手術を行わないことが一般的です。しかし、大動脈からお腹の臓器に行く血管に問題が生じているときは、手術が考慮されています。

◆ 大動脈解離の新しい治療、ステントグラフト

 血管が膨らんだ形の大動脈瘤では、大動脈の中を内貼りする人工血管、ステントグラフトを血管の中から挿入し、血管を大動脈瘤と隔離するカテーテル治療が一般に行われるようになりました。同様の手法を大動脈解離にも用いる治療が始まっています。

 足の付け根を5㎝ほど切開、皮膚下の動脈を露出させ、細いさやの中に縮込めた針金のついた人工血管、ステントグラフトを動脈の中に挿入、解離した大動脈の中まで進めます。ここでさやを引き抜き、さやの中に入っていたステントで大動脈の壁を内貼りします。ステントの入ったさやを解離した大動脈の中に進め、さやを引き抜き、ステントを解離した大動脈の中で広げ、解離のエントリーを内側から塞ぎ、解離の進展を止めます。
 
秋葉事務所では、大動脈損傷にて、ステントによる人工血管置換術を施行した被害者さんの受任例があります。手術は成功しましたが、以後、激しい運動などは控えるように指導されました。その運動制限について、後遺障害を模索しました。ただし、主治医は手術の成功を誇り、(ある程度の運動制限では)後遺症自体を認めませんでした。明確な診断内容を得ることができず・・認定には届きませんでした。

 毎度、手術を経た内臓系の後遺障害は、明確な症状、明確な検査数値がでなく、まるで雲をつかむようです。 結局、諸症状を頭部外傷を主とする「神経系統の障害」にまとめました。この点、事務所の経験則がものを言いました。
  
 それで、高次脳機能障害に集約した実例 👉 7級4号:高次脳機能障害(40代男性・神奈川県) 
  
(4)後遺障害のポイント

Ⅰ. 大動脈解離では、真腔と偽腔が交通している偽腔開存型が多いのですが、偽腔に流入した血液が比較的短期間で血栓・器質化し、偽腔に血流のない偽腔閉塞型となることがあります。

 偽腔閉塞型では、解離部の線維化が完成すると、解離部は正常な血管壁よりむしろ強靱となり、破裂する危険はなくなると考えられており、後遺障害の認定はありません。
 
Ⅱ. 偽腔開存型を残しているものは、11級10号

 ピラピラの偽腔開存型を残しているものは、大動脈径の拡大を避けるという観点から、血圧の急激な上昇をもたらすような重労働は制限されることになり、労務に一定の制限が認められ、11級10号が認定されています。もっとも、日常生活や通常の労働に制限が生じることはありません。
 
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