年間数件、「脊髄損傷(頚髄損傷)の疑い」の診断書を目にします。本件「非骨症性頚髄損傷」もそれに連なるものです。

 「疑い」の診断名は患者の訴える症状からの推測的な診断であって、画像や検査数値などエビデンス(医学的な証拠)がまだ整っていないものと理解しています。しかし、「疑い」段階であっても、痛み・痺れ・麻痺など神経症状で苦しむ患者さんにとって、すがりつく診断名となります。これが、交通事故受傷の場合、後の賠償問題の火種になるのです。

 本件は、MRIの再検査、脊椎の専門医の受診、筋電図検査と努力を重ねましたが、確固たる医証は何も得られませんでした。自賠責でダメなら訴訟認定です。確かに裁判上での認定もわずかに判例がありますが、本件は総合的に検討も訴訟認定は困難と判断しました。

自賠責の限界です
 

14級9号:頚髄損傷(40代男性・東京都)

【事案】

自動二輪車にて走行中、右折してきた対向車に衝突し、負傷。直後から頚部痛等、強烈な神経症状に悩まされる。相談に来られたのが受傷から10ヶ月を経過後であり、症状は、四肢の麻痺がひどく、杖を使わなければならないほど重篤であった。

【問題点】

病院同行にて医師に診断名を確認すると、「非骨症性頚髄損傷」となっていた。あいまいな診断名のみで、脊髄損傷としての確定的な診断はなく、MRI画像上も脊髄損傷の画像所見が見当たらない。


脊髄損傷の立証には、↑のような明確な画像所見が必要です。

【立証ポイント】

まず、脊椎の専門医にセカンドオピニオン受診とした。「手術不要であり、MRI画像でも所見はないので、認定されたとしても14級くらいではないか。」とのご意見にて対応終了となった。

依頼者さんは諦めきれず、次は別の病院で「針筋電図検査」を実施したが、これも所見なしであった。

また、本人の意向で身体障害者手帳を申請すると2級が認定された。これを唯一の特記資料として添付するも、やはり14級9号しか認定されなかった。症状は重篤であるが、他覚的所見がない以上、12級以上に引き上げられる要素がないため、14級9号やむなしの案件となった。