(4)後遺障害のポイント
 
Ⅰ. 交通事故による口や咽頭の外傷で、かすれ声を除き、言語に機能障害を残した例を経験したことはありませんが、それはともかくとして、認定基準を解説しておきます。
 
① 言語の機能を廃したものとは先の4種の語音のうち、3種以上の発音が不能になったものであり、3級2号が認定されます。

② 言語の機能に著しい障害を残すとは、4種の語音のうち2種が発音不能になったもの、または綴音機能に障害があり、言語では意思を疎通させることができないものであり、6級2号が認定されます。

③ 言語の機能に障害を残すものとは、4種の語音のうち1種の発音不能のものであり、10級3号が認定されます。

④ 声帯麻痺による著しいかすれ声は、12級相当となります。
 
 そしゃくの機能の著しい障害=6級2号と言語機能の障害=10級2号の組み合わせは併合して5級相当となります。

 そしゃく機能の用を廃したもの=3級2号と言語の機能の著しい障害=6級2号の組み合わせは併合すると1級になりますが、これでは序列を乱すことになり、2級相当が認定されます。
 
Ⅱ. 頭部外傷後の高次脳機能障害では、失語症が言語障害に該当するのですが、脳の言語野が損傷されることにより、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことの全て、あるいはいくつかが障害されます。発声障害とは別次元と思います。例えば、

① 言いたい言葉が思い出せない、

② 相手の言葉を理解することができない、

③ モノの名前を思い出すことができない、

 これらの3つが代表例ですが、高次脳機能障害が失語症のみにとどまることはなく、他に、認知機能の低下を合併することから、全体像で等級が認定されています。つまり、高次脳機能障害による失語症では、先の認定基準の適用はありません。

 今まで何人か高次脳機能障害で失語を経験してきました。もっとも重度のケースは、相手の話した言語が耳に入るも、全く理解できない少年がおりました。言語聴覚士の訓練により、相手の言う事を復唱させることが限界でした。また、「アー、ウー」のみ、全く言葉の出なくなる失声症も存在します。
 
 失語を詳しく 👉 失語症の分類 ① 
 
Ⅲ. 反回神経麻痺などで予想される後遺障害は、かすれ声、嗄声(させい)が代表的です。事故後、かすれ声を残したときは、耳鼻咽喉科における咽頭ファイバースコープと咽頭ストロボスコープで、他覚的所見を立証しなければなりません。

 咽頭部への直接的な打撃や気管挿管もしくは抜去するときの、声帯の披裂軟骨脱臼では、咽頭ファイバースコープで発見できないことが予想されます。そんなときは、筋電図、発声時のX線透視検査で立証しなければなりません。

 整形外科医が作成した後遺障害診断書で、傷病名が頚部捻挫、自覚症状欄に、右上肢の痛み、重さ感、だるさ感、かすれ声、画像所見欄に、MRIにて、C5/6右神経根の圧迫を認め、上記の自覚症状と画像所見は一致していると記載されていても、認定されるのは、14級9号がやっとです。

 かすれ声は、耳鼻咽喉科における検査で他覚的所見が立証されることで12級相当が認定されることを承知しておかなければなりません。
 
 これら発声障害は 👉 前項の「喉の後遺障害 ② 咽頭外傷 Ⅲ 発声障害」を参照して下さい。
 
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