反回神経麻痺(はんかいしんけいまひ)・・・言語の機能障害
 
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 人の発声器官は咽頭です。咽頭には、左右の声帯があり、この間の声門が、筋肉の働きで狭くなって、呼気が十分な圧力で吹き出されると、声帯が振動し、声となるのです。

左が閉じた状態、右が開いた状態

◆ 歌手、ヴォーカリストが喉を痛める・・
 通常は声帯に問題が生じて声がかれることを指します。歌い手、とくにロックヴォーカリストの職業病でもあります。最近では、一晩中カラオケから喉を痛める人も少なくありません。喉をお構いなしに酷使すると、声帯にポリープや声帯結節ができます。ポリープは声帯の血管が破綻してできる血腫、簡単に言うと血豆です。声帯結節とは、タコのような突起物で、左右の声帯が音声の酷使により頻回に接触することで生じます。ポリープは左右どちらかの声帯にできるのに対し、結節は両方の声帯にできるケースが多くみられます。
 上の図のように、本来は声帯の縁は一定に隙間を残して閉じています。ポリープや結節ができると、声帯がぴったりと閉じなくなり、振動に支障が生じたり呼吸が漏れることで声に変化が起きてしまいます。
 かつて秋葉も、ひどく声帯を痛め、専門医を受診したことがあります。治療ですが、しばらく声を出さずに安静とするしかないようです。
  
◆ 声は、口腔の形の変化によって語音に形成され、一定の順序に連結されて、初めて言語となります。 語音を一定の順序に連結することを綴音(てつおん)というのです。

 語音はあいうえおの母音と、それ以外の子音とに区別されます。子音はさらに、口唇音・歯舌音・口蓋音・咽頭音の4種に区別 されます。

 4種の子音とは、

① 口唇音(ま、ぱ、ば、わ行音、ふ)

② 歯舌音(な、た、だ、ら、さ、ざ行音、しゅ、じゅ、し)

③ 口蓋音(か、が、や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)

④ 咽頭音(は行音)です。
 
(1)病態

 ヒトが発声するときは、左右の声帯が中央方向に近寄って気道が狭まり、呼気により声帯が振動することにより発声しています。また、食物を飲み込む=嚥下するときには、嚥下したものが気管に入り込まないように左右の声帯は強く接触して気道を完全に閉鎖しているのです。このような声帯の運動性は、反回神経によりコントロールされています。
 
(2)症状

 反回神経麻痺では、息漏れするような声枯れや、誤嚥、むせるといった症状を引き起こします。
両側の反回神経を損傷すると、左右の声帯が中央付近で麻痺して動かなくなり、気道が狭まり、呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)、ゼーゼーした呼吸音を生じます。
 
※ 正中位とは、発生時の位置で、声帯がこの位置で固定されると呼吸困難となります。
 
※ 副正中位とは、反回神経麻痺で最も多い固定位置で、大声が出ない状態となります。
 
※ 開大位とは、深呼吸の位置で、声帯がここで固定されると声が出なくなり、誤嚥を生じます。

 

 反回神経は、脳から伸びる迷走神経の枝であり、声帯を動かす働きをしています。この神経は、脳からダイレクトに喉頭にジョイントするのではなく、肺の内側の縦隔まで下行して走行した後、反回して、長いルートをたどり、最終的に喉頭の声帯に到達して喉頭筋を支配しているのです。

 交通事故では、プロレスのラリアートのような咽頭部に対する強い打撃、頚椎の脱臼や椎体骨折、頭部外傷、縦隔気腫に合併しています。その他に、気管挿管もしくは抜去するときに、声帯の披裂軟骨を脱臼するなど声帯に損傷を受けることにより、かすれ声=嗄声(させい)を残すことがありますが、これは、反回神経麻痺ではありません。

 初発症状は、声がれですが、脳幹に近い頭部外傷では、舌咽神経や副神経などの他の脳神経が近くを走行しており、声がれ、飲食でむせる以外に、声が鼻にもれる、飲み込んだときに鼻へ逆流する舌咽神経麻痺の症状、副神経の症状により、肩が痛い、肩が上がりにくいなどを合併します。
 
(3)検査・治療

 検査では、ファイバースコープで、声帯の動きを観察し、診断されています。原因を特定するには、頚部、胸部のXP、CT、食道造影、上部消化管内視鏡検査などが行われます。その他に、筋電図や発声時のX線透視検査を行って鑑別されています。筋電図検査は、麻痺の程度や回復の見込みを判断する上で、極めて有用な検査です。

 治療ですが、急性期では、ビタミンB12、アデノシン酸などの末梢循環改善剤や消炎鎮痛解熱剤としてステロイドなどが経口投与されています。

 麻痺の発症から6カ月を経過しても症状の改善がないときは、機能を改善する目的で手術が実施されており、誤嚥などの症状が強いときには、手術の時期が早められています。手術には、麻痺した声帯にコラーゲンや脂肪を注入して膨らませる方法と、頚部を切開してシリコン板を挿入するか、声帯を動かす軟骨や筋肉を牽引する方法があります。

 コラーゲンや脂肪の注入術では、その後、注入した物質が吸収されることがあり、同じ術式が繰り返されることも予想されます。頚部切開法では、局所麻酔下に発声させながら、声の改善を確認しながらの術式であり、確実性、安定性に優れています。両側反回神経麻痺による気道狭窄では、気管切開、片側声帯の外方牽引術などが実施されます。
 
 つづく ⇒ 反回神経麻痺 Ⅱ 後遺障害