咽頭外傷では、嚥下障害以外にも、呼吸障害や発声障害を残すことが予想されます。
 
 呼吸障害の立証は、追って胸腹部臓器の後遺障害「気管・気管支断裂」で解説します。
 
Ⅲ.  発声障害の立証

 人の発声器官は咽頭です。咽頭には、左右の声帯があり、この間の声門が、筋肉の働きで狭くなって、呼気が十分な圧力で吹き出されると、声帯が振動し、声となるのです。

 この声は口腔の形の変化によって語音に形成され、一定の順序に連結されて、初めて言語となります。 語音を一定の順序に連結することを綴音というのです。

 語音はあいうえおの母音と、それ以外の子音とに区別されます。子音はさらに、口唇音・歯舌音・口蓋音・咽頭音の4種に区別されます。
 
◆ 4種の子音とは?

① 口唇音(ま、ぱ、ば、わ行音、ふ)

② 歯舌音(な、た、だ、ら、さ、ざ行音、しゅ、じゅ、し)

③ 口蓋音(か、が、や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)

④ 咽頭音(は行音) をいいます。
 
1. 言語の機能を廃したものとは先の4種の語音のうち、3種以上の発音が不能になったものをいい、3級2号が認定されます。
 
2. 言語の機能に著しい障害を残すとは、4種の語音のうち2種が発音不能になった状況または綴音機能に障害があり、言語のみでは意思を疎通させることができない状況で、6級2号が認定されます。
 
3. 言語の機能に障害を残すものとは、4種の語音のうち1種の発音不能のものであり、10級3号が認定されます。
 

 
 発声障害を立証する代表的検査は、喉頭ファイバースコープ検査です。椅子に座った状態で、直径3mmの軟性ファイバースコープを鼻から挿入して検査が行われます。上咽頭、中咽頭、下咽頭、声帯、喉頭蓋、披裂部など、のどの重要部分について形態、色調、左右の対称性、運動障害の有無を画像で立証しなければなりません。

 その後、4種の構音の内、どれが発音不能かは、音響検査と発声・発語機能検査を受け、検査データーを回収して立証することになります。

音響分析検査

 

発声・発語検査

 
◆ かすれ声、嗄声(させい・・かれた声)は、喉頭ストロボスコープで立証します。

喉頭ストロボスコープ

 これは、高速ストロボを利用して声帯振動をスローモーションで観察する装置です。スローモーションで見ることで、声帯の一部が硬化している、左右の声帯に重さや張りの違いが生じておこる不規則振動を捉え、検査データにより、嗄声を立証しています。嗄声を立証すれば、12級相当が認定されます。
 
 以上、病院に行きさえすれば出来る簡単なことのようですが、発声障害ふくめ後遺障害の立証作業では、毎回、大汗をかいています。耳鼻咽喉科における各種の検査で、嚥下や言語の障害を立証するのですが、ほとんどの医師に、交通事故後遺障害診断の経験則がありません。
 
 そしゃくと言語の機能の両方に著しい障害を残しているときは、立証により4級2号が認定されます。まず、そしゃくについては、喉頭ファイバー検査で、瘢痕性食道狭窄などの異常所見を発見しなければなりません。その上で、実際の嚥下障害は、嚥下造影検査で具体的に立証することになります。
 
 次に、言語については、喉頭ファイバースコピーで仮声帯、声帯と、その周辺部の異常所見の発見をお願いし、発声・発語機能検査、音響検査で言語障害のレベルを立証することになり、4級2号を確定させるには、手間のかかる5つの検査をお願いし、その結果について、後遺障害診断書に記載を受け、なおかつ、画像と検査データの回収をしなければなりません。

 医師の協力が簡単に得られる? そのような甘い考えでは、簡単に叩き潰されます。
 
 全ての交通事故後遺障害は、
 
① どこを怪我したの?
 
② どんな治療を受けてきたの?
 
③ どこまで改善し、どんな障害を残したの?
 
 上記の3つを、主に画像を中心として、各検査などで立証しなければならないのです。①と②は、受傷直後の画像、診断書と診療報酬明細書で確認することができるので容易です。

 ところが③の立証では、医師の理解と協力が欠かせないのです。通常、医師は治療に必要のないことで時間を割きません。損害賠償の為?となれば、医師に限られた面談時間内で、必要性について、丁寧しかも簡潔に説明しなければなりません。

 罵倒され、ののしられても、医師と喧嘩することは許されません。ひたすらに、頭と腰を低くして、丁寧に、ホンの少し、しつこくお願いしなければならないのです。

 誰にでもできることではありません。
 
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