健忘≒記憶障害?同じ意味で解釈されることが多いようですが、医学的には健忘は記憶障害の1形態で、記憶障害の主だった症状とされます。健忘も3つの症状・種別に分かれます。
今日は高次脳機能障害が疑われる被害者さんの病院同行でした。症状固定はまだ先ですが、先月、早めに「意識障害の所見」を主治医に記載していただきました。しかし意識障害の続いた時間は高次脳機能障害の要件を満たす基準には至っていません。画像上、比較的脳への損傷は明瞭なので、意識障害の所見をもって障害が否定されることはないと思いますが、より被害者の受傷直後の様子を説明するために、受傷直後における健忘の状況について追記していただきました。
健忘とは「もの忘れ」で記憶障害の1つ。つまり自分がしたことを忘れる症状です。健忘について今日明日と続けて説明します。
「記憶」は以下の3つの要素から成り立っています。
1、新しい情報を知覚し、脳裏に刻み込む「記銘」
2、記銘したものを心の中に持ち続ける「保持」
3、保持されたものを再び意識の上に浮かび上がらせる「追想」or「想起」
「健忘症はそのうち「追想」の障害で起こります。まず忘れる範囲によって二分します。
a.自分がどこの誰であるか分からない、出生から以降のすべてを忘れてしまう「全健忘(全生活史健忘)」。これは記憶喪失ですね。
現在担当している高次脳機能障害は7名です。介護が必要な重篤な被害者から日常生活に大きな問題のない被害者まで、症状の重さが様々です。また障害を重さ、重篤度で測るのではなく、障害の”種類”を把握するようにしています。 一定の障害があっても被害者の人生は続きます。いずれ社会復帰、仕事をしなければなりません。ベストは周囲の理解を得ながら事故前の職場に復帰することです。しかし障害の種類によっては以前と同じ業務はできない、一定の制限が必要となります。では仕事上、多くの方が避けて通れない自動車の運転について考えてみましょう。
高次脳機能障害をもつ者は運転に関して、認知症のような絶対的欠格事由ではない。しかし、認知機能のどの領域がどの程度保たれていれば運転適性とみなされるかの基準があいまいである。高次脳機能障害者の運転能力を評価する方法としては,実車による路上評価、運転シミュレータ等によるオフロード評価,机上の神経心理学的検査,家族等同乗者による評価が挙げられる。このうち、一応のゴールドスタンダードとみなされるのは実車による路上運転評価であり、今後,医療機関と自動車教習所などとの連携により、高次脳機能障害者の路上運転評価を系統的に進めていくシステム作りが急務である。本稿では、我々が行っている高次脳機能障害者の運転評価の状況について、症例をあげて概説した。高次脳機能障害者の自動車運転については、さまざまな分野の専門家がそれぞれの立場から意見を出し合い、最良の方策を検討していくべき問題である。 (引用:日本高次脳機能障害学会 資料)
高次脳機能障害で「どもるようになった」「言葉がでてこない」などの言語に障害が残った場合、これは運転に影響はないはずです。また軽度の記憶障害でも運転に影響はないと医師に判断された方もおります。遂行能力、注意障害、性格変化(易怒性)、易疲労性等は運転に影響しますが、これも程度によって判断されるべきです。
先日のリハビリ病院でも脳障害者の仕事復帰に向け、「自動車運転」のリハビリプログラムがありました。それは言語聴覚士による神経心理学検査を行い、運転シミュレータを加え、医師が判断します。神経心理学検査ではTrail making test(TMT)、Badsが組み込まれていました。この病院は運転シミュレータの設備があるそうです。(いずれ検査を見学したいものです)
教習所でも運転シミュレータは認知症が疑われる高齢者の免許更新に欠かせない検査となりつつあります。高次脳機能障害の場合は病院で医師の指導の下に進めることが理想的です。
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少し特殊な撮影法に入ります。以下の3つは高次脳機能障害の立証に重要な意味を持ちます。単なるMRIでは病変部を見逃すこともあるので、被害者、関係者には必須の知識です。
F L A I R 画像:Fluid Attenuated Inversion Recovery(水抑制画像)
FLAIR(フレアー)画像は、基本的には水の信号を抑制したT2強調画像(脳室が黒く見えるT2WI風の画像)であり、脳室と隣接した病巣が明瞭に描出される。ラクナ梗塞(細い血管(動脈)が詰まってしまうことで起こる小さな脳梗塞のこと)に代表されるかくれ脳梗塞や血管性認知症にみられるビンスワンガー型白質脳症(高血圧や脳の動脈硬化などにより脳の血流障害のため大脳白質(脳表面より深い部分)が広範に障害されることによって認知症が現れること)などの慢性期の脳梗塞部位(白色に描出される)確認に有用です。 <高次脳機能障害では> 脳損傷後の脳萎縮、脳室拡大の経過観察に用いられます。脳内出血や硬膜下血腫など血だまりが発生した場合、脳外科医は受傷から翌日、3日後、1週間後、1か月後、3か月、半年後とこのMRI検査を継続します。再出血への警戒はもちろん、脳の器質的変化を監視するためと思います。
T2*強調画像:T2star weighted image (T2 star 強調画像)
T2*強調画像(T2スター)は出血性病変の検出力が極めて高く(黒色に描出される)、過去に発症した出血巣の確認や無症候性微小出血の検出に優れています。 <高次脳機能障害では> 高次脳機能障害の診断「びまん性軸索損傷」の病原部として、微細な出血痕(点状出血)の描出に有効です。T2スターで点状出血を発見!をよく経験しています。また受傷後2年経過した場合でも、脳のわずかな出血部、損傷部の痕跡を発見できるのも特徴です。
DWI:Diffusion weightedimage (拡散強調画像)
DWI(ディフージョン)は水分子の拡散運動(自由運動度)を画像化したもの。拡散が低下した領域が高信号として描出されます。急性期の脳梗塞では、拡散が低下してくるため、超急性期の脳梗塞の部位判定(白色に描出される)に有用です。T2スターでも見逃す細かな損傷でも描出可能です。
<高次脳機能障害では>
T2スター同様、「びまん性軸索損傷」における点状出血、または微細な損傷の確認に有用です。違いはより微細な出血も見逃さないが、受傷直後に限定されることです。脳外傷が軽度でも意識障害や半身麻痺がみられ、また相当の脳障害が残りそうな患者の場合は早めに手を打つ必要があります。既存のMRIで脳損傷が発見できなかったときは急ぎ「DWI(ディフージョン)でお願いします!」と医師にリクエストしなければなりません。このまま損傷部が映らなければMTBI(外傷性軽度脳損傷)の扱いとなり、後の障害が否定されてしまうからです。
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高次脳機能障害の原因となる、脳外傷の急性期によく行われる手術について解説します。最近担当した被害者さんもこれを行いました。 <硬膜下血腫>
脳の表面と頭蓋骨の間には硬膜と呼ばれる硬い膜があります。硬膜と脳表の隙間は硬膜下腔と呼ばれています。硬膜下血腫はここに出血が起きることです。交通事故などの外傷で出血する場合、「急性硬膜下血腫」の診断名がつきます。また、頭の打撲後およそ1~2カ月経過して、この硬膜下腔に血液が徐々に貯留するケースは、慢性硬膜下血腫です。
貯留した血液(血腫)量が少なく、脳に対する圧迫が軽度であれば深刻な症状とはなりませんが、血腫が増えて脳実質を強く圧迫するようになると、半身麻痺や言語障害などの神経症状を呈し、高次脳機能障害の原因となります。受傷初期では意識障害を来たし、圧迫が増大し続ければ命を落とします。
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本日は高次脳機能障害の神経心理学検査の結果を主治医に提示し、確定診断を仰ぐために医師面談を行いました。珍しく弁護士先生と同行しました。そこであることを思い出しました。
以前、高次脳機能障害をテーマとした弁護士向け研修会で、ある弁護士からご質問をいただきました。
Q 「神経心理学検査の検査結果は絶対的な判断基準にならないのではないか。検査の数値が証拠として裁判上それほど重視されないのではないか?」 高次脳機能障害の神経心理学検査は、記憶・記銘検査、知能検査、遂行・注意能力検査等、様々な角度から患者を観察します。これらの検査数値はいずれもケガをする前の検査数値と比べ、その劣化を確認する必要があります。当然ながら知能指数など個人差がありますので、年齢別平均値と比べるだけでは正確な知能の低下が測れません。ましてやケガの前にこのような専門検査を受けている方などほとんど存在しません。
したがって前述の弁護士の言うとおり、「絶対的な証拠価値はない」・・・ひとまずこれが正答です。
では、逆に質問ですが、目の前の依頼者の障害立証に対し、この弁護士はどのように戦うのでしょうか?
以前、30ページに及ぶ弁護士の作成した”高次脳機能障害裁判の陳述書”をみたことがあります。弁護士から被害者を丁寧に観察し、意見をまとめたものです。文章の内容は「私の見るところ、被害者は明らかに事故後、異常となった。医学書によると、云々・・・」が主張されています。しかし弁護士の意見と言えど、医師でもない専門外の第三者の観察に過ぎません。頑張って主張しても、患者家族の「日常生活報告」以下の判断材料にしかなりません。このような陳述書では確実に負けます。
高次脳機能障害で成果を上げている弁護士は、当然ながら充実した医証を収集しています。各種の検査結果とそれに対する医師の診断書、意見書、それらを添付した資料、陳述書を山盛り用意します。
高次脳機能障害のような繊細な障害の立証は、ある検査結果のみをもって「障害の有無」を判断するものではありません。自覚症状(家族の観察)、それに合致する神経心理学検査の結果、対応する受傷部位が明らかな脳の画像、そして専門医の診断、これらを矛盾なく一致させること、一つの線とすることが肝要です。この作業を記憶、知能、遂行能力等、障害のある部分ごとに丁寧に検証していきます。これが立証作業です。緻密な情報の積み重ねによって、自賠責調査事務所や裁判官のような第三者に障害の有無・程度を納得してもらうのです。
絶対的な証拠となる近道はありません。したがって先の弁護士に対する回答は「絶対的な証拠など元々ありません。しかし相対的には重要な役割となります。」となります。続けて「では検査結果(武器)も無しに、どうやって主張する(戦う)のですか?」と逆質問になってしまうのです。
「弁護士を丸腰(医証なし)で戦場(裁判)に行かすわけにはいきません!」
・・・これが私の結論です。
私たちMC(メディカルコーディネーター)の仕事を認知している弁護士事務所は医証という武器の調達に余念がないので、良い戦いを展開しています。
逆に医療立証の重要性に理解が及ばない弁護士の場合は・・・最初は意気揚々と保険会社と交渉に入ります。しかし相手保険会社の顧問弁護士、顧問医が用意する、(障害を否定する)意見書に立ちふさがれて、真っ青になって妥協案の回答を持ち帰ります。そして被害者に「ここで矛を収めた方が得策だ」と説得に入ります。何のために弁護士を入れたのか?これは事実上、負け以下の「戦闘放棄」です。これが交通事故交渉の多数例、実態です。依頼した被害者は浮かばれません。
私たちが連携する弁護士はしっかり戦います。今日武器調達に同行した弁護士先生も然りです。
先日の弁護士セミナーにて、S先生の講義から得た事がたくさんありました。研修資料をもとに、いくつかの論点を語っていきたいと思います。
まず、MTBIと高次脳機能障害の区別についてです。これは以前も取り上げてきたテーマですが、数千件の高次脳機能障害の評価とMTBI患者の診断を行ってきたS医師の解説で、ようやく一定の理解を得ました。
MTBIは外傷軽度脳損傷の略で、WHOの基準が良く知られています。これをベースに行政側が障害認定をする上で高次脳機能障害と区別しています。 詳しくは 👉 高次脳機能障害の立証 13 <新認定システム> 6 言葉通り、外傷による軽度の脳損傷(と推測される)患者は、現実に多くの症例が報告されています。臨床上の基準であるMTBIは、PTSDや高次脳機能障害の症状を含み、症状の類別はかなり広範囲です。問題はこの診断名が、補償制度や労災、自賠責などの対象外のものとする、行政側の定義と混同することにあります。臨床診断からの「広義のMTBI」と、補償制度の認定基準外と位置づける「狭義のMTBI」、このダブルスタンダードをS先生はご指摘されました。これは後日詳しく解説します。 ・・・S先生は、まずMTBIの症状について説明下さいました。以前、S先生の診断に一度立会ったことがります。患者に対し専門用語を控え、例え話や道具を使い、とてもわかりやすいものでした。 今回の研修では「あしたのジョー」を引用して下さいました。S先生へ敬意を込めて、秋葉なりに追補、まとめました。
まず「あしたのジョー」を30秒で説明
1968年連載のボクシング漫画。テレビアニメ放映、アニメ映画化。最近は山下智久さんの実写版も公開されました。
主人公、矢吹丈という不良少年が南千住 泪橋にふらりと現れます。そこで元ボクサーの丹下段平に見いだされ、ボクシングの指導を受けます。
その後、少年鑑別所を経てプロボクサーとなり、鑑別所で出会ったボクサー力石 徹とリングで再戦します。しかし試合直後、力石はジョーのパンチがもとで死亡してしまいます。そのショックでスランプに陥るもののカーロス・リベラとの戦いで復活します。
その後も数々の強敵と戦い、自身もパンチドランカーとなりながら、ついに世界チャンピオン ホセ・メンドーサと対戦します・・・
強敵カーロス・リベラ戦、そして廃人となったカーロス
WPPSI(ウィプシイ)とはWechsler Preschool and Primary Scale of Intelligenceの略です。
高次脳機能障害の検査で定番の知能検査、WAIS-Ⅲ(ウェイス)の子供版です。ウェクスラー式知能検査それぞれ年齢別に数種類あります。WPPSI(幼児用 3歳10ヶ月~7歳1ヶ月 45分)、WISC(児童生徒用 5歳~16歳11ヶ月 60分)、そして成人用がWAIS(成人用 16歳~74歳 60~90分)です。 ウィプシィは幼児向けの精密な知能検査として高い信頼性と安定性を得ています。
動作性下位検査 言語性下位検査 動物の家 続きを読む » 昨日は高次脳機能障害が疑われる被害者の病院同行でした。主治医との面談が目的でしたが、急患の為、診断は別の医師が対応し、面談はかないませんでした。
通常、主治医と面談し、今後の検査、書類について協力を仰ぎます。そして多くの場合、専門的な検査設備や人材がいないので他院への紹介状を頂くことになります。治療のための検査は行うが、障害の立証についての検査は消極的です。検査と治療はまったく別物と考えている病院がほとんどです。特に脳神経外科部門ではそれが顕著です。日々、くも膜下出血や脳梗塞で運ばれてくる患者の対応に1分1秒を争っています。脳外科の医師は超多忙なのです。当然ながら医師も一定の治療を終えた患者に対して興味はなくなります。高次脳機能障害が見落とされやすい障害である理由がよくわかります。この環境で障害を立証するのですから、必要な検査と専門医の診断、それらを落とし込んだ診断書を完璧にそろえるのは難しい。単に病院同行して書類作成を代行するだけでは済まないことが多いのです。高次脳機能障害の評価が可能な病院を確保する必要があること、この仕事に携わっている者なら常識です。
HPを検索しますと、様々な専門家が高次脳機能障害について積極的な取り組みを喧伝してます。美辞麗句に惑わされることなく選ぶコツ・・・検査・評価のできる病院に誘致できるか否か?これを依頼する前にしっかり確認すべきです。
平成23年4月の改定事項において高次脳機能障害の「疑わしい案件」について事前照会をかける、といった件がありました。これについて照会方法と用紙が判明しましたので報告します。 (高次脳機能障害を扱う法律職者必見!)
<まず改定内容のおさらい>
後進障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない(診療医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っていない)場合・・・
高次脳機能障害(または脳の器質的損傷)の診断が行われていないとしても、見落とされいる可能性が高いため、慎重に調査を行う。具体的には、原則として被害者本人および家族に対して、脳外傷による高次脳機能障害の症状が残存しているか否かの確認を行い、その結果、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合には、高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。
つまり「高次脳機能障害をよくわかっていない医師にあたってしまった場合でも、一応、高次脳機能障害を疑って調査をする」、ということです。今までの冷たい門前払いからの進歩ですが、すべてにおいて提出書類がものをいいます。つまり後遺障害の申請が書類審査である以上、書類の完備という基本は変わっていません。今までは門前払い案件に対し、異議申立てをする際にこれらの書類を追加提出していました。たとえばカルテや看護記録の開示を行い、家族の申述書(受傷時~現在の症状)を作成、添付する等です。したがって最初から調査事務所が疑わしき案件に対し、家族と医師に「症状の照会」をかけてくれるのなら一定の救済が果たせます。本来、全件そうすべきと常々思っていました。
では照会はどのように行われるか?
医師、本人(ご家族)に対して、以下の用紙を送り回答を求めます。これは高次脳機能障害の診断書に添付する重要な副診断書とも言うべき書類です。高次脳機能障害にたずさわる者にとってお馴染みのものです。新しく照会用紙を作ったわけではなかったようです。(少し肩すかし)
医師に対して → 「神経系統の障害に関する医学的所見」
毎月のように高次脳機能障害の被害者が相談にやってきます。まず最初にご家族から相談がもちかけられる事が普通ですが、本人が単独で相談に見えることがあります。 はたしてこの方は高次脳機能障害なのか?ご自身で電車を乗り継いでやってくるわけですからそれほど重篤と思えません。お話しを伺ってもよくわかりません。同居のご家族の観察や意見をきかないと判断できないのです。
何故か? 以下解説します。
経験上、「私は高次脳機能障害です」と自覚している方は稀です。ほとんどが、「何かおかしい」、「家族からおかしいと言われた」位の認識です。高次脳機能障害の障害者の最大の特徴は「病識の欠如」です。「病識」とは自分が脳のケガで、認知や記憶の障害を負っていると自覚していることです。 はっきり自覚・自己診断している人は ×障害者 → ○心身症 と思えてなりません。
話を戻します。このように稀に単独で訪ねてくる相談者には「よくわかりません、家族と一緒にまた来て下さい」と家族の同伴の上、再来を求めます。そして後日家族からの聴取によって記憶障害や性格変化のエピソードが語られ、やっと障害ありとの認識に至ります。 そして今後の立証作業にご家族の検査同伴はもちろん、日常生活報告書作成、その他最大限の協力が必要となります。障害者本人だけでは立証作業は絶対にできません。 軽度の記憶障害は度忘れ、言語障害も多少言葉がでないだけ、性格変化は多感な時期だから? 被害者の異変はどんどん回復するはずであるとご家族は期待しがちです。脳外傷による障害は一般的に不可逆的(回復不可能)なものです。ご家族も冷静な判断、対応が必要です。
ある相談者(被害者の奥さん)とのエピソード。
私 「日常生活であれっ?と思ったことを教えて下さい。」 奥さん「はい。主人に食事をだしたら、『いつもありがとう』と言いました。」私 「それがどうしてですか?」
奥さん「結婚以来、初めて言われましたよ!これで主人はおかしくなったと確信しました。」 続きを読む »高次脳機能障害の研修会での質問から~「神経心理学検査の成績には年齢差、個人差があると思いますが、良い悪いはどうのように判断されるのでしょうか?」。
なるほど・・・神経心理学検査の多くは年齢別平均点数、もしくはカットオフ値が設定されています。年齢ごとに平均値がありますので年齢による数値修正は可能です。カットオフ値は「この点数以下は障害あり」となる目安です。そしてこの点数自体は障害の絶対的な判断基準とはなりません。これら数値を分析し、診断につなげるのは脳神経内科医、脳神経外科医の仕事です。加えて検査をしたST(言語聴覚士)のレポートも重要な分析となります。 しかし個人差まではいかがでしょう?これは難しい問題です。実例から説明しますと・・・
Aさんは現場の肉体労働です。子供の頃から体育が得意で勉強は苦手でした。そして17歳で就職、現場でバリバリ活躍しています。 Bさんは小学校から常に学年トップの成績、そしてパソコンが大得意です。大学を卒業し大手企業に就職、プログラマーとして活躍しています。
さて、この同世代(年齢差は3歳)の両者が高次脳機能障害となってしまいました。知能検査であるWais(IQ)の成績をみてみましょう。
Aさん IQ70 平均以下です。 Bさん IQ100平均値です。 Aさんの方が重い障害かな・・・しかし!
Aさんは元々のIQ90位?(やや平均以下)、BさんはIQ140(入社試験でやったそう)
だとしたらどちらが重い障害でしょうか?
それ以外の検査もAさんの方が数値が低いのですが、元々の能力を考えるとBさんの方が能力の落ち込みが大きいと思えてなりません。
つまりIQ100=平均値だから日常生活に困らない、平均的な能力を保っている、と判断されては困るのです。事実Bさんはシステムのプログラムを制作する仕事へ復帰すべく努力を重ねています。しかし短期記憶障害、ワーキングメモリー(日常や仕事上のごく短期間の暗記)障害でそのような高度な仕事はまったく無理です。メール、ワープロ程度しかコンピューターが扱えません。一方Aさんはコンピューターなどからっきしダメです。それは事故前も後もかわりません。
日常生活を基準に考えればAさんの方が重い障害、しかし元々の能力を基準とすればBさんの方が重い障害に?。しかし事故前の知能検査の数値が残っていた!なんてことは一度もありません。
う~ん、悩んでしまうところです。
研修の質問によって浮上した課題がいくつかあります。それらを立証マニュアルに加筆掲載していきます。締切は明日!徹夜必至です。
前回のベントン視覚記銘検査につづき、もう一つ解説します。
② レイ複雑図形再生課題 (ROCFT)
レイ複雑図形検査 Rey-Osterrieth Complex Figure Test (ROCFT) と呼ばれる視覚性記憶検査です。 図形を見ながら描く模写、その直後に図形を見ないで思い出して書く直後再生、30分後に再び図形を見ないで記憶を頼りに再生する遅延再生の3つの検査を行います。記載の有無や歪み、適切な配置ができたかどうか18項目に分けて0.5点~2.0点まで5段階で採点します。 視覚性記憶のみではなく、視覚性認知、視空間構成、遂行能力なども評価できます。
いよいよ今週末、都内で研修会です。来月の2日を加え、4日間の集中研修です。私は今月の2日目、「高次脳機能障害の集中講座」を担当します。現在6件の被害者をフォローしていますので、その最新情報を織り交ぜ、実践的な内容にしたいと思います。今週は資料、レジュメに忙殺されています。
言語に関する障害は平成23年4月の新基準において言及され、「意思疎通能力」の低下として重要視されています。 前回の「言語機能に関する障害」ではSLTAを取り上げました。もう一つ解説します。
② WAB失語症検査
言語機能の総合的な検査(8項目、全38検査)を行います。自発語、復唱、読み、書字について0~10(自発語のみ20)点の得点を計ります。失語症の分類・軽重を明らかにします。
1、全失語(重度の失語) 2、ブローカ失語(運動性失語、流暢性の喪失) 3、ウェルニッケ失語(感覚性失語、内容の乏しい発言) 4、健忘性失語(言葉のど忘れがひどい) 以上4つの分類、評価をします。言語に関する障害は平成23年4月の新基準において言及され、「意思疎通能力」の低下として重要視されています。 前回の「言語機能に関する障害」ではSLTAを取り上げました。もう一つ解説します。
② WAB失語症検査
言語機能の総合的な検査(8項目、全38検査)を行います。自発語、復唱、読み、書字について0~10(自発語のみ20)点の得点を計ります。失語症の分類・軽重を明らかにします。
1、全失語(重度の失語) 2、ブローカ失語(運動性失語、流暢性の喪失) 3、ウェルニッケ失語(感覚性失語、内容の乏しい発言) 4、健忘性失語(言葉のど忘れがひどい) 以上4つの分類、評価をします。
昨日に続き、視覚に焦点を当てた検査です。見えているものを間違った記憶としてしまう。
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世界の左半分がない世界? 今朝、神戸の佐井先生から高次脳機能障害の案件について相談がありました。気になる症状に「左目が見えない」がありました。どうやら脳の障害によるもののようです。今回は半空間無視について。 左目が見えない?というより左目に映る映像を認識できない状態です。脳の障害で、頭頂葉や右側頭葉に硬膜下血腫等による圧迫、ダメージを受けた方に多くみられる症状です。もちろん反対に逆の右側が認識できないケースもあります。これは視神経障害による失明とは違います。通常人は眼に映った情報を脳で解析しています。しかし脳の解析システムが故障することよって、映るものが認識できない状況に陥るのです。したがって当人は見えてないことすら自覚しません。 日常の例では、 ・ 食卓に並んだいくつかのおかずの皿から右半分しか箸をつけない
・ 廊下を歩く時、片側に寄ってしまい、肩を壁にすりながら歩いてしまう
・ 家の絵を描かせると片側半分だけしか描かない
・ 片側から話しかけられても反応しない
・ 片側に人が立っていても存在に気づかない ① 行動性無視検査(BIT)
Bitは従来の視空間認知検査法であった「線分抹消課題」や「線分2等分課題」など机上の視覚認知評価6種類からなる「通常検査」と日常生活場面を想定した「行動検査」の2つを行います。絵や文字の消込や線引きなどいかにも検査的な通常検査に加え、「行動検査」を加えることにより、より詳細に症状を訴えることが可能です。例えば文章の読み書き、時計の認識、物品・硬貨の認識などより生活の困窮点を明らかにできます。
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事故以来言葉をスムーズに発っせなくなった、極端にゆっくり話すようになった、こちらの言うことに対する理解が遅く会話が滞りがちになった…これらは一般に失語症となりますが、高次脳機能障害の場合、以下の2種が代表的です。
1、運動性失語 左前頭のブローカ領域の損傷。話し言葉の流暢性が失われます。どもりやすい、言いたい事が思うようにでてこないなど、家族は事故後の変化がはっきりわかるはずです。2、感覚性失語 左側頭に位置するウェルニッケ領域の損傷。流暢性は保つものの言い間違いが多く、発言量の割に内容も乏しくなります。意味不明な言葉、とんちんかんな事ばかり言っている状態もあてはまります。 くも膜下出血で倒れた人が左脳の出血と損傷によって、言葉に障害が残ってしまったケースと似ています。しかし高次脳機能障害は程度の軽重に差があるため、軽い失語症は事故のショックのせい?と周囲も安易にみてしまいます。もっとも右側頭葉のみにダメージを受けた患者さんは、「会話・発言・読み書き」に関して以前と変わらないことも多いようです。
失語症に絞った専門的な検査がありますので挙げます。 ① 標準失語症検査 (SLTA)
失語症の有無、重症度、タイプの鑑別を行います。短文やまんがなど26項目についてそれぞれ読ませ、後に説明させます。正答から誤答まで6段階で採点します。リハビリ計画の策定の為に行われることが多く、リハビリ施設では失語症の定番検査です。 続きを読む »
さすがにWaisⅢ(知能検査)、Wms(記憶検査)は掲載できません。表題にあるように検査用紙1枚でできる検査を紹介していきます。詳細を解説するより、検査項目を見た方が理解が早いと思うからです。
立証側の私が主張したいのは
× 「闇雲にマニュアルに沿って検査を実施」
〇 「患者の症状を観察し、必要な検査を想定、症状と検査結果を結び付ける」これを提唱したいからです。
2年前、高次脳機能障害の立証を手掛ける、ある弁護士と行政書士に教えを乞いたのですが、両者とも機械的に「検査はこれとこれをやる、以上。」でした。その検査の狙いや内容を質問をしたのですが、交通事故110番のマニュアルに記載されている検査表のコピーを見せてくれただけで、どうもよくわかっていないようです。これでは検査する医師、言語聴覚士と検査目的について共通認識が図れず、運任せ、他力本願の立証作業になってしまいます。 障害に苦しむ被害者本人とご家族のために、血の通ったお手伝いをしたいものです。
■三宅式記銘検査
ある単語と単語のペアを聞かせ、それを覚えているかをみます。聴覚に特化した記憶検査です。ワーキングメモリー(一時的に言葉や番号を暗記する脳の働き)の状態が明らかになります。 その単語のペアは関連する組みあわせ(有関連追語)とまったく無関連な組み合わせ(無関連対語)、それぞれ10組行います。
<有関連対語> ・・つまり連想ゲームです
まず「煙草」→「マッチ」といったの関係するペアの単語を聞かせます。その後「煙草」と言ったら「マッチ」と答えられるか3回テストします。他に「家」→「庭」、「汽車」→「電車」 など10組で10点満点です。 障害のない人は3回目まででほぼ正答となります。平均値は 1回目8.5点 – 2回目9.8点 – 3回目10点
<無関連対語> ・・暗記力が問われます
「入浴」→「財産」、「水泳」→「銀行」、「ガラス」→「神社」・・・関係のない言葉の組み合わせに健常者でも苦戦しそうです。 平均値は 1回目4.5点 - 2回目7.6点 - 3回目8.5点
障害者は無関連追語で特に点数が悪くなります。1回目から3回目まで点数が上がらない、つまり短期記憶(ワーキングメモリー含む)、学習能力の低下を表します。
<有関係対語試験>
1回目
2回目
3回目
時間答え
時間
答え
時間
答え
煙草 – マッチ
空 – ...
高次脳機能障害のチェックとしてお馴染み、ミニメンタルステーツ(MMSE)を取り上げます。
長谷川式と同じく受傷初期に行う、見当識、記銘の簡易検査の位置づけです。これも健常者であれば30点満点となります。脳外科医や言語聴覚士から「長谷川式よりMMSEの方が使いやすい」と聞きます。
<被害者の家族からよく聞く質問>
Q.長谷川式もMMSEも30点満点なのですが、提出すべきでしょうか?
A.9級の認定者でも共に満点のケ-スがあります。認知障害、記憶障害が軽度の場合、満点かそれに近い点数になります。それでも等級が認められたのはその他の障害、失語、遂行能力、社会適合性での障害が顕著だったからです。 ちなみに5級より重い被害者は30点満点とはならないはずです。
Q.これから検査をします。WAISⅢ(知能検査)、WMS(記憶検査)が予定されていますが、長谷川式やMMSEが予定に入っていません。「その2つの検査は必ずやって下さい」と相談した行政書士から聞きました。必要でしょうか?
A.WAISやWMSの検査をするのであれば、今更、長谷川式やMMSEを行う必要はありません。同様の検査項目があり、総合検査であるWAIS、WMSを実施すれば十分な検査結果が得られるからです。 長谷川式、MMSEは受傷初期において実施済みのケースをよく見ます。しかしあくまで診断上必要な検査に留まりますので、認知、記銘、記憶の評価データとしては不十分です。障害等級の審査にはWAIS、WMS他の検査が必要となります。 「交通事故後遺障害獲得マニュアル」(交通事故110番)を棒読みしている法律関係者に質問のような誤解が見受けられるようです。
ミニメンタルステーツテスト(MMSE)
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