続きます。

 先週「(無保険車傷害特約の)裁判基準」か「(人身傷害保険の)保険会社基準」と書きましたが、これは正確ではありません。約款上、無保険車傷害特約も人身傷害保険もそれぞれに保険会社の支払い基準が記載されています。

 しかし、過去私が携わった、もしくは承知している無保険車傷害特約の請求は3件ですが、すべて保険会社は裁判で決まった賠償額を(渋々)支払いました。対して人身傷害特約の請求では「約款に書かれた基準で!」とかなり強硬です。この二つの保険の支払対応にはかなり温度差があります。

 なぜでしょう? これは自動車任意保険の誕生の秘密にさかのぼります。やや私の推論も含みますがお聞きください。

 加害者の賠償責任の肩代わりにより、交通事故被害者の救済を果たし、社会の安定を目指す。・・・このような社会的ニーズから自動車任意保険の販売は認可されました。社会的責任の強い商品であるからこそ、発売当時は「全社同じ内容、同じ掛け金、同じ支払基準」で販売されました(これは平成10年の自由化で撤廃されました)。その政府の認可に至る過程で、以下のような理屈が浮上しました。

 「対人賠償の掛け金を払って被害者の救済に備える契約者が、もし逆に保険を掛けていない(支払い能力もない)相手の自動車事故で被害にあったら?」

 

⇒「自分は相手に対して補償を備えているのに、無保険車に被害を受けて補償が得られない。これは不公平ではないか!」
 

⇒「では対人賠償をかけている人にも救済が図れるよう、自動的に無保険車傷害特約を適用しましょう。」

 

 これは保険に「公平の原則」という崇高な理念が織り込まれているからです。

 無保険車傷害特約の存在意義がわかってきましたね。

teresa 話を戻します。もちろん、対人賠償保険も保険会社独自の支払基準が存在します。しかしこの保険は相手への償いをするためのものです。加害者に代わって会社独自の基準を相手に押し付けても相手が納得せず司法に判断をゆだねれば、保険会社は当然その判断を尊重し、判決額を支払います。対人賠償保険は「償うための保険」なのだから当然です。
対人賠償保険は自ら「通院1日5000円の保険に入ろう」と掛け金を払う傷害保険と性質が違うのです。傷害保険はあくまで契約する会社と契約との間での決め事(約款)に従います。この約束が守られているならば、司法判断の介入するところではありません

 つまり無保険車傷害特約は対人賠償保険(の反射)扱いとされてるからこそ裁判基準を尊重します。約款上の支払い基準も「まずは弊社基準で、それで納得しなければ協議、それでまとまらなければ裁判上の和解・判決で」となっています。前述の通り、対人賠償は償いの保険ですから保険会社の基準で押し通せません。

 しかし、保険会社は人身傷害保険についてはなんとしても傷害保険扱いとしたいのです。これは償いをする「賠償保険」ではなく、保険会社と契約者の約束で結ぶ「傷害保険」なのだと・・・。

 その結果、昨日の2つの解決パターンが生じてしまったのです。  つづく