踵骨不顕性骨折(しょうこつ ふけんせいこっせつ)
 

右足の骨格を外側から見ています

 
(1)病態

 かつて、京都で開催した交通事故無料相談会に、「2カ月前、自動車の後部座席から外に出たときに追突を受け、歩道の段差を踏み外した?」 として、かかと部の痛みを訴える65歳の高齢者が参加されました。幸い、先に降りていた妻が支えてくれたので、転倒は免れたそうです。しかし、かかと部がみるみる腫れだし、とても痛くて歩けなかったので、そのまま自動車で、整形外科に直行し、診察を受けたのです。

 整形外科でのXP検査では、骨折は認められず、かかとの打撲と診断されたのですが、2カ月を経過しても、腫れが引くこともなく、今も松葉杖歩行しています。相談は、「本当に打撲なのでしょうか?」「このままの治療で治るのでしょうか?」右足を拝見すると、現在も踵骨部が腫れており、押さえると激痛を訴えます。そこで、チーム110が懇意にしている専門医を紹介、一緒に受診することになりました。

 専門医の見立ては、断定はできないが、右踵骨不顕性骨折ではないか、というものでした。
 
※ 不顕性・・・病気の過程が始まっているが、まだ所見が表れていないことを示す医学用語です。

 先に、踵骨は硬い皮質骨の殻のなかに、スポンジのような軟らかい骨、海綿骨が詰まっており、例えれば、和菓子のモナカの構造によく似ていると解説しました。追突の衝撃で、歩道の段差を踏み外した衝撃は、かかとの後ろ部分に伝わると予想されます。このとき、かかとの骨の全形が崩れなくても、衝撃が骨組織を破壊することがあるのです。

 しかし、全形は保たれていますから、XP撮影では、骨折所見が確認できません。さて、破壊された海綿状の骨組織は、時間の経過で、新しい骨に置き換えられていきます。この置き換えが完了すると、線状の痕跡が現れるのです。線上の骨折線が確認できれば、本件は右踵骨の骨折と診断されます。それまでは、所見が得られない不顕性踵骨骨折なのです。

 本件は、専門医の診察の通り、右踵骨不顕性骨折から右踵骨骨折に確定診断がなされたのです。現在、受傷から5カ月を経過、松葉杖はとれましたが、1本杖で歩行しています。あと1カ月で症状固定、右踵骨部の痛みで14級9号の獲得を目指しています。
 
(2)後遺障害のポイント

 主治医が、右かかと打撲と診断したままであれば、本件の後遺障害は痛みを訴えても、ほぼアウトです。自賠責・調査事務所は、打撲や捻挫は、受傷から3カ月で治癒すると確信しているからです。「65歳の高齢者であれば、もう少し、痛みが続いても不思議ではない?」そのように断定して、非該当で片付けられます。

 しかし、今回は、専門医の診察で右踵骨不顕性骨折が疑診され、その後の経過で、骨折の線状痕が確認できたことにより、右踵骨骨折との確定診断がなされました。「骨折があって、65歳の高齢者であれば、痛みを評価して14級9号をくれてやるか?」おそらく、調査事務所は、このように判断するはずです。
 
 この老人は、息子と2人で製材所を経営しており、昨年の年収は、750万円です。
 逸失利益 750万円×0.05×7.1078=266万5425円
 後遺障害慰謝料 110万円
 後遺障害部分の損害 376万5400円
 まだ、捕らぬ狸の皮算用ですが、なに、確実にモノにしてご覧に入れます。
 
 後日談になりますが、14級9号が認定されました。捕った狸の損害賠償で、493万円を実現したのです。
  
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