(4)後遺障害のポイント
 
◆ 腓骨神経麻痺の経験は、交通事故110番宮尾氏が医療調査員時代、1999年5月から1年間、治療先に複数回の同行にて学習を続けました。まず、そのレポートから、確定診断までの観察。
 
① 好発部位が、膝の外側周辺と、足関節の周辺であること、

② 骨折がなくても、強い打撲で発症する可能性のあること、

② 腓骨神経断裂では、自力で足首や足趾を曲げることができなくなること、

③ 足関節は、drop foot、下垂足の状態となること、

 これらを経験則としてマスターしたことから、傷病名に腓骨神経麻痺がなくても、受傷機転から、腓骨神経麻痺を疑うことができるようになり、結果、この19年で80例を超える経験則を積み上げたのです。
 
Ⅰ. 後遺障害の立証方法

 腓骨神経麻痺は、正座したときの足の痺れのようなものと理解している整形外科医が多いのです。これは、症例数が少ないので、やむを得ないことです。

 したがって、骨折、脱臼に合併している腓骨神経麻痺は別としても、骨折のない神経麻痺では、受傷から2カ月以内に、神経伝達速度検査を受けて、立証していく必要があります。時期を失すると、自賠責保険・調査事務所が、本件事故との因果関係を疑い、立証が困難となるのです。
 
Ⅱ. 秋葉事務所では、腓骨神経麻痺だけの症例の場合、原則として、受傷後6ヵ月で症状固定を推奨しています。

 腓骨神経の圧迫や絞扼性のものは、その因子を除去してやれば、改善が果たせますが、腓骨神経の断裂は不可逆性で、改善は期待できません。最近の医学論文では、腓骨神経の縫合術が紹介されていますが、ラットで実験している段階ともいわれており、今までに、この手術が実施されたことはありません。

 膝下部の腓骨神経麻痺では、① 膝窩部と② 腓骨頭下の2つのポイントで電気を流して、足先にある短趾伸筋を収縮させます。それぞれのポイントから、どれだけのスピードで刺激が伝わってくるか、また刺激が伝わるまでどれぐらいの時間がかかるのかを調べます。麻痺のレベルは、健側と患側を比較して判別されています。

 
◆ 神経伝達速度検査を測定するポイント

 前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋・腓骨筋・長母趾屈筋・長趾屈筋の左右の徒手筋力テストを受け、数値を診断書に記載することを依頼します。

 足関節と足指の背底屈ですが、他動値は正常ですが、自動値ではピクリとも動きません。自賠責保険・調査事務所は、関節の機能障害については、医師が手を添えて計測する他動値を基準にして後遺障害等級を認定しており、本件は、他動値では正常を示すことから、神経麻痺のため自動値で計測を行ったと、後遺障害診断書に記載を依頼しなければなりません。完全麻痺の数値となった場合、ここまで立証して、やっと7級相当となるのです。

 神経系の検査は、設備と技師を擁する大学病院です。被害者が指摘しない限り、町の整形外科医が気付くことは、ほとんどありません。上記のポイントを押さえないと、足指の用廃で9級15号が認められるのも容易ではありません。
  
Ⅲ. 坐骨神経断裂による神経麻痺は、今まで1回も経験していません。脛骨神経麻痺は1例のみです。多くは、それ以前に、膝窩動脈損傷でアンプタ、切断されている可能性が高いとも考えています。

 しかしながら、腓骨神経麻痺は、以下のように、いくつも経験則を有しています。下腿の神経麻痺は、まず、腓骨神経麻痺を想定します。素人診断と言われようと、「疑うこと」からスタートです。
 
 疑いからスタートの典型例 👉 併合8級:脛骨開放骨折・腓骨神経麻痺(70代女性・東京)
  
 ↑の立証例を観て、はるばる北海道から秋葉に相談の例 👉 7級相当:腓骨神経麻痺・コンパートメント症候群(30代男性・北海道)
 
 完全回復を目指す医師を説得しての立証例 👉 8級相当:腓骨神経麻痺(20代女性・千葉県)
  
 取りこぼしなく等級を網羅した教科書的実例 👉 併合5級:大腿骨・脛骨骨折 腓骨神経麻痺(50代男性・埼玉県)
 
 主治医の認識乏しく・・初回審査なら上位等級が取れたであろう例 👉 併合8級⇒併合7級:腓骨神経麻痺・短縮障害 異議申立(40代男性・埼玉県)
 
◆ 交通事故110番の経験則

 1998年1月、24歳会社員の女性ですが、友人の車に同乗中、交差点で出合い頭衝突し、右膝外側部をダッシュボードで打ちつけるダッシュボード・インジュリーで右腓骨神経麻痺を発症しました。
 右下腿骨に脱臼や骨折はなく、腓骨々頭部の強い打撲で、腓骨頭の後ろから前へ回り込むように走行している総腓骨神経が断裂した珍しい例でした。その後、彼女は2年間、リハビリを続けましたが、改善は得られず、症状固定となりました。これが、腓骨神経麻痺の初めての経験でした。

 MRI、針筋電図検査、神経伝達速度検査で、腓骨神経麻痺の断裂を立証し、日常・仕事上の支障は、陳述書にまとめ、自賠責保険にたいして、被害者請求を行いました。結果が出るまでに5カ月が掛かりましたが、右足関節の用廃で8級7号、足指の用廃で9級15号、併合7級が認定されました。

 陳述書の作成で多くのことを学習しました。 彼女にとって、深刻であったのは、片松葉で歩行することよりも、右下腿部の疼痛と筋拘縮でした。右下腿部は常に痺れたような重だるい疼痛が持続し、この痛みと腓骨神経麻痺による血流障害の影響で、右下腿全体の筋肉が拘縮し、萎縮が進行していたのです。このまま放置すれば、右下腿は廃用性萎縮、つまり右脚が痩せ細り、スカートがはけなくなります。これを防止するため、彼女は、下腿部のマッサージを中心としたリハビリ治療を受けていました。
 このリハビリ治療は、生涯、欠かすことができないのです。このことも医師の診断書を添えて弁護士に伝え、将来の治療費の請求をお願いしておきました。
 
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