深腓骨神経麻痺=前足根管症候群(しんひこつしんけいまひ)

 
 
(1)病態

 イラストのピンク色の線が深腓骨神経で、赤色で表示された部分の感覚を支配しています。青色の部分は、下伸筋支帯といい、筋膜が変性してできた腱で、ちょうど足首を回り込むようにして存在し、トンネルのような形状で足の背部を通る4つの筋肉を足根骨に押しつける役割を果たしているのですが、深腓骨神経はこの下を通り抜けて出てくるのです。

 サンダルのストラップによる圧迫、ジョギングシューズの紐の締め付けなどの繰り返しで、前足根管症候群を発症すると考えられています。足の下伸筋支帯の圧迫により生じる深腓骨神経麻痺は、前足根管症候群と診断されています。


 
(2)症状

 下伸筋支帯の青○部分が圧迫を受けると、深腓骨神経が圧迫され、赤色部が痺れ、感覚異常が出現します。そして、深腓骨神経は、単趾伸筋部でも圧迫を受けることがあります。

 深腓骨神経は、単趾伸筋を支配しており、圧迫を受けると、単趾伸筋の筋力が低下します。しかし、前足根管症候群=深腓骨神経麻痺は、深腓骨神経の単なる絞扼性神経麻痺です。一般的には、交通事故外傷で予想される傷病名ではありません。
 
(3)治療

 圧迫を排除し、厚さ5mmのパッドで優しく包み込む保存的治療が行われます。およそ2、3週間で症状は消失し、完治します。

 人工樹脂ギプスにより前足根管内圧が上昇し、深腓骨神経麻痺となった複数例が医学論文で報告されています。
 
(4)後遺障害のポイント

 交通事故外傷で予想される傷病名ではありません。そして、深腓骨神経麻痺=前足根管症候群で後遺障害を残すことはありません。前に学習した腓骨神経麻痺とは、大違いです。
 
◆ 交通事故110番の経験則

 無料相談会に参加された45歳女性です。対面信号が青となり、横断歩道で歩行をはじめたところ、左折車の衝突を受けたもので、傷病名は右腰部、右膝の打撲、左手と左前腕部の擦過傷、右前足根管症候群となっていました。

 受傷から3カ月目の参加で、腰部に打撲による疼痛を残していますが、現在の中心的な症状は、右親趾と第2趾基節骨中間部のしびれと痛みです。転倒時に、右足首の捻挫はしていないとのことです。この被害者はジョギングが趣味で、毎日10kmを走行、事故時もジョギング中であったとのことです。事故直後は、右半身のあちこちが痛くて気にしていなかったが、2カ月を経過した頃より、この部分の痛みとしびれが目立つようになり、まだ、ジョギングに復帰できていないとのことです。

 相談者は、サンダル履きで参加されていたのですが、正に、サンダルのストラップ部分で、足が圧迫を受けており、毎日10kmのジョギングも、靴の紐をきつく締めることにより、年月の経過で発症したものと思われました。サンダルの上のストラップ部分を、指で押し込むと、しびれや痛みが増強、このことが証明されました。サンダルのストラップ、ジョギングシューズは、靴紐をきつく締めないで様子を見るように伝えました。ガングリオンなどの腫瘤を原因としたものでは、オペで圧迫因子を開放することになりますが、サンダルや靴が原因であることが大多数です。

 当然に、本件事故によるものではなく、そうであっても、後遺障害の対象にはなり得ません。そのことを理解してもらい、無料相談会を終えました。
 
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